先人の教え?

真夏の晴れた日の昼下がり。第7格納庫に繋がる武道場に3人が立っていた。

「AAを『操縦する』と言ってもな、結局は自分の動きを増幅してくれてるだけだ。
 だから、どれだけAAが良い動きをするかが操縦者のセンスに関係してくる」
「はいっ」
「その場の空気、つまりは相手の目的、気持ちを読んで、どう対応するかを即判断しなきゃなんない。
 基本的にはこちらからは攻撃はするな。相手に呼吸を合わせ、その力を受け入れる。
 そうやって波に乗るんだ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・波?」
「・・・・・・ぐっさん。それ、もしかしなくてもサーフィンのことじゃ・・・・・・・・・?」
大野が首を傾げるとともに松本が眉を顰める。その問いかけに山口は、おっと、と小さく呟いた。
「断じてそんなことはねぇよ。とりあえず口で言ってもわかんねーだろうから」
そして山口は構えを取る。
「2人まとめてかかってこい」
掌を上に向け、指でちょいちょいと挑発した。同時に大野も松本も構える。
「俺を伸したら○々苑で焼肉奢ってやるよ」
瞬間、2人の目付きが変わった。

大野は短く息を吐き、一気に山口を距離を詰める。それに続いて松本も山口に殴りかかる。
しかし2人の攻撃の応酬も、山口は涼しい顔をして避けたりあしらったりしている。
松本が大野をちらりと見た。視線に気づいた大野が小さく頷く。
「うらあああ!!!」
突然、松本が大声を出して山口に正面から突っ込む。
「お?ヤケになったか?」
ニヤニヤしながら、山口はそれをまともに受け止めた。
激しい突きや蹴りの連続をギリギリでかわしたり防御したりしながら少しずつ後ろに下がっていく。
そして松本が半歩下がり、息つく間もなく回し蹴りが山口の顔を捉えようとした瞬間、
しゃがみ込んでその軸足に払いをかけた。
「・・・っ!!」
「!?」
倒れる瞬間、松本が笑ったように見えて咄嗟に目だけで左右を確認。
ふと視界に影ができて、何かいるという考えに至る前に身体が動く。
右斜め前に身体を移動させると同時に左足を軸にして、両手を床について無理矢理回し蹴りの体勢に持っていった。
振り上げた足は、音もなく近付いていた大野の腕を上手く払う。
そして跳ねるように立ち上がると、一瞬バランスを崩した大野の腕を取り勢いに任せて床に叩きつけた。
「いっ・・・・・!!!」
「あー・・・・・・リーダーでもダメかぁ・・・・・・・・・・」
背中から畳の上に落ちた大野の悲鳴を聞いて、倒れたままの松本が力なくぼやく。
「俺に勝とうなんて10年早いな!
 でも今の良かった。でも大野は油断禁物だな。影が見えなかったら危なかった」
残念だったなと笑う山口が、二人にはどうにも必死になっていたように見えた。



「○々苑って言っちゃった手前負けらんなくてさぁ。ついうっかり本気出しちゃった」
あははと笑う山口を、ため息混じりに城島は見る。城島の横に座っていた二宮が困ったような顔で曖昧に笑う。
「焼肉ぐらい奢ったりよ。腐っても上官なんやから」
「腐ってないし。だってアイツらの食欲知ってる?バケモンだって!」
「お前がバケモン言うな。長瀬と同じくらいやろ」
「長瀬が5人だぜ!?一か月分の給料が飛んでくよ!」
わぁわぁと喧嘩を始めた上官二人に挟まれて気不味い思いをしながら、上の人も大変なんだなぁと二宮は思う。
同時に社会の厳しさを知ったような気がした。


2010/03/27

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予算についての考察と次世代への想い1

人気のなくなったカフェテリアで、坂本と長野は遅めの昼食をとっていた。
チームのトップたるもの、
普段の業務や訓練のほかにさまざまな会議や打ち合わせに参加しなければならない。
とはいっても、部屋の中に缶詰という慣れない状況は、肉体的にも精神的にも堪える。
そういうわけで坂本は半ば放心状態でランチを突いていた。
対照的に、その向かいに座る長野は涼しい顔で同じくランチを頬張っている。
「・・・・・・・・・・・・・・・お前、元気だなぁ」
「別に会議は嫌いじゃないしね」
「・・・・・・・・これからはお前だけ出てくれよ」
「ヤだよ。リーダーは坂本君でしょ?リーダーが出なくてどうすんの」
「・・・・・・・・あー・・・・・・・・・・・・リーダー辞めてぇ・・・・・・・・・・・・」
大きくため息をついて机に突っ伏す坂本。
そんな時だった。
「坂本く〜ん!長野く〜ん!」
どこからともなく呼ぶ声がした。
坂本はパッと起き上がり、2人でその声の方を見る。
カフェテリアの入り口から、手足の長い青年が手を振りながら走ってきていた。
「おう、どうした、相葉」
後輩の相葉の到着を、坂本は疲れを見せない笑顔で迎える。
さすがだなぁと長野が思っていると、相葉がわくわくした様子で小型の映像端末を取り出した。
「これ見てくださいよ!」
そして再生された映像に、二人は首を傾げながら小さな画面を覗き込む。
そこに映っていたのは、よく分からない映像だった。
AAが動いているのは分かるが、その動きの目的がよく分からない。
映っている機体は、ワインレッドを基調とした、無駄のない流線形のフォルムの真新しいものだった。
チームAの主力機体(となるはず)の【truth】だろうと二人は思い当たる。
しかしそれはAA専用の砂場から後ろ向きに飛び、そのまま後ろに走り出す。
走り終えてビシッと気を付けをすると、相葉と同じチームの二宮と櫻井が出てきて、これまた意味のわからない、言葉として意味をなさない言葉を話している。
そしてそのまま映像は終わった。
「「・・・・・・・?・・・・・・」」
「で!見ててくださいよ!!」
自信満々に相葉は端末を操作する。
「逆再生、スタート!」
勢い良く再生ボタンを押す相葉。電子音とともに逆回しの映像が流れ始める。
すると、片言っぽくはあるが、確かに日本語になって聞こえる。
意味が分からなかった言葉は、どうやらこれからの行動を説明するものだったらしい。
しゃべり終えた二宮と櫻井が引っ込むと、AAが走り出す。
ぐんぐんと加速すると、白いラインの前で踏み切り、砂場に向かって大きく跳んだ。
そしてきれいに着地。どうやら走り幅跳びだったらしい。
映像はAAがピースサインをして終わった。
「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」
「どうですか!!すごいでしょ!!」
坂本は曖昧な笑顔を浮かべて相葉を見た。キラキラと輝く笑顔がそこにあった。
「・・・・・・すごいな!」
「でしょ!」
「みんなに見せてきたらいいんじゃない?」
長野が優しそうな笑顔を浮かべて相葉に提案する。
それを聞いて、相葉は元気良く返事をすると、来た時と同じように走って去って行った。
「・・・・・・・・・・すげぇな・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・そうだね」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・あんなことに予算使うくらいだったら、こっちにくれればいいのに」
しばしの沈黙の後、長野がぼそりと呟く。
その言葉に坂本が、ひっと声を上げた。
「た、頼むから合法的に予算をもらってくれ!」
「嫌だなぁ。俺がいつ非合法に予算をもらったりしたんだよ」
「その笑顔が信用できないんだよ!!」
にこやかに晴れやかに笑う長野に坂本が叫んだ。
「誰のせいで胃炎持ちになったと思ってるんだ!!」
「そんなひどい奴がいるんだ〜。誰だろ」
長野は素知らぬ顔で首を傾げる。坂本はギリギリと歯噛みした。


2010/06/01

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予算についての考察と次世代への想い2

「いててててて!!」
「ギブ?」
「ギブギブギブ!!」
悲鳴を上げて床をバンバン叩く長瀬を、太一は満面の笑みで解放する。
「どう?新しい必殺技」
「・・・・・・・・・・・・・・激しく痛いです・・・・・・・・・・・・・・」
「じゃあ次は〜」
「まだあるんすか!!」
二人のやり取りを視界に入れながら、城島と山口はぐったりと椅子に腰を下ろした。
チームT専用のドッグ内に設置された控え室(という名のプレハブ小屋)には、簡易台所と食卓のようなテーブルセットがある。
そのテーブルに突っ伏すと、山口は仰々しく大きなため息をついた。
「兄ぃ、何かリーダーより老けた感じがするよ」
「うるせぇ。今度お前が会議出やがれ」
流しにもたれてそう声をかけた松岡に、山口は即座に噛みつく。
「部下にあたんなや。みっともない」
大人げない様子に苦言を呈した城島に山口はぐっと唸った。
同時に松岡の横でヤカンが音を立て始める。松岡はのんびりと火を止めると、用意してあった5つのカップにお湯を注ぐ。インスタントコーヒーの香ばしい匂いが部屋の中に広がった。
「そんなに大変な会議だったの?」
その中の2つを城島と山口、それぞれの前に置きながら尋ねる。
「まぁ、予算関係の会議はいつでも大変やで」
「ふぅん」
「下手したら修理費ももらえんで?」
「それは困ります!」
カップで手を温めながらの城島の言葉に、別の技を試されていた長瀬が声を上げた。
「自由に動けなくなっちゃう」
「壊す気満々じゃねぇか!!」
少な目にお湯を入れたカップに砂糖と牛乳を加えて、
長瀬専用の一杯を作っていた松岡が突っ込みを入れた。
「お前壊しすぎなんだよ」
「マボだって壊すじゃないですか」
「オーバーホールはお前より少ねぇよ」
「てかお前らの治療に使う医療品の方が金かかってんだけど」
下3人が誰が一番無駄なことをしているかで揉めている様子を見て、城島が静かにため息をついた。
その時だった。
部屋の外でバタバタと足音がして、勢いよく扉が開いた。
「失礼します!!」
元気よく飛び込んできたのはチームAの相葉だった。
太一と長瀬は取っ組み合いをやめ、笑顔で相葉を迎え入れる。
「相葉じゃん」
「どうしたんだよ」
「ちょっと見てほしいものがあるんですよ!」
嬉しそうに声を上げる相葉に、さらに松岡が近寄った。
「これです!」
相葉は携えていた携帯型の映像端末を取り出す。
それを立ち上げている間に太一、松岡、長瀬がそれを覗き込んだ。
4人の様子を城島と山口は、用意されたコーヒーを啜りながらほのぼのと眺める。
その内に音声が流れ始めた。
映っていたのは、よく分からない映像。AAが意味の良く分からない動きをしている。
映っている機体は、ワインレッドを基調としたチームAの主力機体(となるはず)の【truth】だ。
それはカメラに向かってピースサインを向けると、AA専用の砂場から後ろ向きに飛び、そのまま後ろに走り出す。走り終えてビシッと気を付けをすると、相葉と同じチームの二宮と櫻井が出てきて、どこの国のものとも分からないような意味不明な言葉を口にする。
そしてそのまま映像は終わった。
「何なん、これ?」
途中から興味を持って覗き込んでいた城島が、
クエスチョンマークを浮かべているメンバーを代表して尋ねる。
すると相葉は嬉しそうに声を上げた。
「見ててくださいよ!!」
自信満々に相葉は端末を操作する。
「逆再生、スタート!」
勢い良く再生ボタンを押す相葉。電子音とともに逆回しの映像が流れ始める。
すると、片言っぽくはあるが、確かに日本語になって聞こえる。
意味が分からなかった言葉は、どうやらこれからの行動を説明するものだったらしい。
しゃべり終えた二宮と櫻井が引っ込むと、AAが走り出す。
ぐんぐんと加速すると、白いラインの前で踏み切り、砂場に向かって大きく跳んだ。
そしてきれいに着地。どうやら走り幅跳びだったらしい。
映像はAAがピースサインをして終わった。
「逆再生するとちゃんとした映像になるんですよ!」
どうです、と自信満々に相葉が胸を張る。
5人は呆気にとられて、茫然と、沈黙した映像端末を眺めた。
そして。
「・・・・・・・・・・・すっげえ!!!」
長瀬が目を輝かせて声を上げる。それに続いて太一も目を輝かせた。
「何これ!どうやったんだよ!!」
「えへへ〜、すごいでしょ!」
太一と長瀬のリアクションに、相葉のテンションが一段と上がる。
黙っている松岡も、何も言わないが詳しい話を聞きたくて仕方ないという空気が滲み出ていた。
それに調子に乗った相葉が説明を始める。

その10分後。

「リーダー!俺もやりたいっす!!」
「これやるのはどう?」
「ちょっと難しくない?それ」
「その小道具作るんまかしとけ」
いつの間にやら参加している山口に、城島はこっそりとため息をつく。
(・・・・・・・・・・・・・・・・・この後きっと東さんから怒られるんやろなぁ・・・・・・・・・・・・・・・・・)
そう思いつつ席を立つ。
そして。
「僕は何すればええのん?」
笑顔でそう言いながら、話し合いの輪の中に入って行った。


2010/06/01

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後日談。

次の予算会議で、とあるチームにごっそりと予算が入り、そこのトップが体調を崩して入院したそうな。


* * * * *
実際は、リーダーも長野様も、こういうときは一番にノリそうな気がする。



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