強者達は夢の前
コンクリートが打ちっぱなしの、それほど広くない部屋。 元々設置されてあった長机を2台並べてテーブルらしきものが作られている。 唐揚げ餃子ピザにフライドチキンの載った大皿がところ狭しと並び、 端の方に鎮座する寸胴はスパイシーな香りを漂わせていた。 「はい炒飯お待ち〜ってあれ?人数足りなくない?」 部屋の隣に設置された小さな給湯室(コンロ設置済)から新たな大皿片手に現れたのは、 長めの黒髪を後ろで1つに纏めた長身の青年。 部屋の中を眺めるなりそう言った彼に、椅子に座って本を読んでいた国分がため息混じりに顔を上げる。 「長瀬は研究部に行って、行方不明のリーダーを探して山口君も行方不明」 「何それ!」 長髪の彼、松岡は驚きに声を上げた。 「せっかく作ったのに冷めちゃうじゃない」 そう文句を言い、アヒルのように唇を尖らせる。 「・・・・・・・・・長瀬は判んねーけど、2人はあと10分しない内に帰ってくるだろうから、放っとけば?」 窓の向こうをチラ見して言った国分に、松岡は首を傾げた。 「どういうこと?」 「感傷に浸らせてあげろってこと」 金属丸出しの階段がカンカンと音を立てる。 登りきった先にある非常扉を開くと、オレンジ色の夕日が一番に入り込んできた。 眩しくて目を細めるが、そのまま屋上に出る。 閉めぬまま手を離した扉が、背後で大きな音を立てて閉じた。 「やっぱりここにいた」 強い光に慣れてきた目が、逆光で黒く染まった人影を捕らえる。 「どないしたん」 苦笑交じりに声をかけると、手摺にもたれかかって外を見ていた城島が山口の方を向いた。 「部屋にいなかったからさ。ここかなと思って」 「何や。バレバレやな」 「アナタ1人になりたい時、いっつもここに来るじゃない」 「せやったけ?」 煙草を燻らせる城島の横で、同じく手摺にもたれかかる。 沈みかけの夕日は、もうすでに半分ほどになっていた。 「早かったね。この1年」 恐らく城島が思っているだろう事に対して、山口はそう言った。 「・・・・・・・・・ホンマやなぁ」 城島は一瞬驚いた表情を浮かべ、しかし苦笑を浮かべて山口を見る。 「でも、まだまだこれからやで。1年しか経っとらんねんで、チーム設立から」 「まぁね。でももう俺ら2人だけじゃないじゃない。太一も松岡も長瀬もいる。 AAだってもう2機あるじゃない。立ち上げは遅かったけど、あいつらには負けねーよ」 自信たっぷりに笑う山口に、城島はもう一度苦笑を浮かべて紫煙を吐き出した。 「せやね。絶対負けられへんわー。 次の機体完成させたら、絶対中居ちゃんにギャフンと言わせてやんねん」 悪戯っ子が浮かべるような顔をしながら、城島は咽喉でクツクツ笑う。 「俺も木村には負けてらんねーからなぁ。久々に操作訓練しようかなぁ」 言いながら、山口は勢いをつけて一歩前に跳んで手摺から離れた。 「まだまだ走り続けなきゃなんないんだから、リーダーのアナタがこんなところで感傷に浸ってないでよ」 そして右手の掌を城島に向けて持ち上げる。 「夢はまだ始まったばかりだからさ。行こうよ」 俺らのチームに。 その言葉に、城島はクっと笑って煙草を床に放り投げた。 「行くで。僕らの夢の実現のために」 歩き出し際、まだ赤く灯る煙草を踏みつけて、城島は山口の手を勢いよく叩いてその横を通り過ぎた。 「ふふっ。気合入った?」 「おお、入ったで。おおきに」 2人でクスクス笑いながら、屋上を後にする。 夕日はすでに沈んでしまい、朱色の光だけが名残惜しげに空を染めていた。 「おかえりー」 「遅いよ!!冷めちゃうところだったよ!」 「みんな揃ったから始めましょーよ!!」 城島と山口が部屋の扉を開くと、口々に違う言葉が飛んでくる。 「ああ!!?研究部に遊びに行ってたお前がそれを言うかー!!」 「いたたたた!!マボ、そんなに引っ張ったらほっぺたちぎれる!!」 「ちぎれるかー!!」 「アイツを待たせておいてあげたんだから後で何かちょうだいよ」 ギャンギャン騒ぐ長身パイロット2人組に、物を要求してくる医務士。 整備士2人の胸の内に僅かに不安が走り抜けたが、 これがウチのチームだよな、とアイコンタクトと苦笑で伝え合い、その騒ぎの中に入っていく。 「結成1周年記念にかんぱーい!!」 クラッカーの破裂音と、そんな声が廊下にまで届き響く。 対機鎧特殊対策部隊・チームTと書かれた部屋の明かりは夜明け近くまで消えることはなかった。 強 者 達は 夢 の 前 2008/09/21
▲TOP とある機体のカラーリングに秘められた諸々の真実
「今日からこの機体の専属操縦士が健で、整備士が剛ね」 その言葉とともににっこり微笑むと、2人はキラキラと目を輝かせた。 「あの時の2人の表情ったらないよね」 「キラキラした笑顔ってこれのこというのかって思ったよ、俺」 クスクス笑いながら坂本と長野が話をしている。聞きながら、井ノ原は首を傾げた。 「それが【COMING】の機体色と何の関係があんの?」 「それが大いに関係あんだよ」 「いつ思い出しても笑えるよね」 そうして思い出し笑いに再び火がついた2人を見て、呼び出しを無視して立ち会えばよかったと井ノ原は頬を膨らませた。 予算が下り、チームVに2台目のAAが配備された日。 その日は井ノ原と岡田がそれぞれ別々に呼び出されており、訓練は午後からとされていた。 朝一で格納庫に搬入された新しい機体は飾り気も何もないものであったが、何が面白いのか、剛と健は2人並んで午前の間ずっと眺めていた。 そんな2人に、坂本と長野は、以前からこの機体を任せようと考えていたことを伝えたのだった。 「「マジで!?」」 声をハモらせた2人に、坂本は笑いを堪えながら説明を続けた。 「おう。マジマジ。機体のコンセプトはまた後でちゃんと話し合うとして、カスタマイズと操作は2人に任せるよ」 頼むな、と剛と健の頭を同時に撫でる。すると2人は照れながらも嬉しそうに頷いた。 「剛はこれからカスタマイズの方法を勉強していこうね。健は坂本君に設定方法を教えてもらうんだよ」 「「うん!!」」 元気良く返事をして、剛と健は楽しそうに話し合いを始めた。 「よかったねぇ。ヤル気満々で」 「ホントだよ。これでコイツのカスタマイズが完了したら、ようやくうちのチームも本格的に旗揚げだな」 「長かったよね」 「それもこれも、いきなり予算をどっさり貰えたからだけど、どういう風の吹き回しだったんだ?」 解らないと首を傾げる坂本の横で長野は何も言わず、ただにっこりと笑っている。 そして、2人はふと、背後から聞こえてくる新コンビの話に耳を傾けた。 「チョー楽しみだね!!どんな機体になるんだろ!?」 「強い機体にしてぇな!!んでチョーカッコ良くしてやる!!」 「ホント!?」 「マジマジ!!」 ワクワクして仕方ないというような2人の会話に自然と笑みが溢れてくる。 「どんな風にするかは決めらんねぇけど、あとは俺たちで決められるんだぜ!機体の色、健に決めさせてやるよ!」 「え!?いいの!?」 「いいよ!何色がいい?」 「何でも良いの!?」 「いいぜ!!」 小さい子のやりとりと大して変わらないことに苦笑を浮かべながらも、坂本と長野は黙って聞いていた。 すると、どうしようかとうんうん唸っていた健が、はいっ、と手を挙げた。 「決めた!これは絶対譲れない!この色が良い!」 「お!!何色だよ!?」 「蛍光オレンジ!!」 「あの時の剛の顔ったらないよね」 「すっげぇ顔してたよな」 2人とも思い出したのか、お互いに顔を見合わせて吹き出した。 「どんな顔だったのよ?」 「この世の終わりが来たって顔してた」 「全然想像できねー」 「何でも良いって言った手前、嫌って言えなかったんだろうなぁ」 「止めれば良かったのに」 「だってその時は、ちょうど茂君と共同開発してたステルス電磁シールドが実用化された時だったから色なんて関係なかったし、何より・・・・・・・・・」 長野はそこで言葉を切り、井ノ原を見てにっこり笑った。 「面白かったから」 あぁ、キラキラした笑顔ってこれのこというのか。 井ノ原は内心そう思いながら、坂本を見る。 気不味そうに視線を逸らしている辺り、当時、恐らく坂本は却下しようとしたのだろう。 しかし現在【COMING】が蛍光オレンジのまま健在であることと、普段の年長者2人の力関係を見ていれば、何があったかは想像に難くない。 「そうなんだ〜」 長野に合わせて笑ってはみたものの、心の中で井ノ原は苦労性のチームリーダーに手を合わせた。 そして思った。 蛍光ピンクじゃなくてよかった。 2008/12/11
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