チームTの日常
巨大スクリーンいっぱいに広がる炎と煙の映像。鼓膜が破れるんじゃないかと思うほどのサイズで轟く警告音。 「・・・・・・・帰ってきたら絶対四の字固めだな」 そして小さく呟かれた物騒な声。 「とりあえず修復先なー。はよやらんと瓦礫になってまうで?操縦士ごと」 ケラケラと軽い笑い声と共に、別の物騒な声が届く。 中サイズのスクリーンに表示された数値を険しい表情で眺めていた太一はたまらず振り返った。 「ちょっと!!怪我人を治療すんの俺だけなんだから、暢気なこと言ってないで早く回収してよね!!」 「俺だって早く回収してぇよ!!最高傑作半壊させやがって・・・・・・・!!」 「いやいや、長瀬心配したりーな。また泣くでー?」 煙で遮られていた映像がクリアになる。 同時に途切れていた通信が繋がった。 『こちら【Midnight】!!【SONIC】の無線壊れたみたい!全然繋がんねー!!』 「何!?じゃあ破損報告あてにできねぇじゃねーか!!」 雑音混じりの報告に、山口が悲鳴をあげた。 「じゃあとっとと終わらそか。松岡!APライフル転送すんで!!」 城島はそう言うと同時にものすごい勢いでパネルキーボードを叩き始める。 『了解っ・・・・・・・て、えぇ!!!?AP(反陽子)ライフル!!?そんなもん使ったら街が吹っ飛ぶでしょ!!!!』 背後からも通信の向こうからも悲鳴が上がった。 「何でそんなの使うの!!バカじゃないの!!!!」 「いや、威力下げたの作ってん。試してみたいんよ〜」 噛みつくような太一の言葉に、城島が笑いながら答える。 そしてちゃんと画面も確認せずに転送ボタンを押した。 「・・・・・・・あ。長瀬に転送してもうた」 「何してんの!!!!」 『何してんの!!!!』 背後と通信、同時にツッコミが入る。 義理とはいえやっぱ兄弟やなぁと、ほのぼのしていると、突然新しく通信が入る。 『・・・・・・・・・・・・・・いません!!衝撃で無線イカれちゃってました!!とりあえず予備使ってます!!今ライフルか何か来たんですけど、どうすればいいですか!?』 「普通に狙って撃ち〜。補正はこっちでするわ」 通信が途切れていた長瀬の確認に、城島が操作を説明し始める。 『バカ!長瀬撃つな!!!』 「ちょっ・・・・・・・リーダー!本気!!?」 山口君も何か言ってよ。 太一は言いながら振り返って、言葉を失った。 すでに山口は照射に耐えられるように長瀬の乗る愛機を改造し始めていたのだ。 「・・・・・・・・・・・・・・ゴメン松岡。もう無理」 『えええええ!!!?退避!?退避すべき!?』 「今から全速力で【SONIC】の右斜め後ろ方向に走れ」 太一の言葉に、大スクリーンに写っていた黒い機体がくるり後ろを向いて走り出した。 そして巨大なライフルを構えた白い機体からどんどん遠ざかっていく。 その反対側、先ほどの爆発で一時的に動きを止めていた、【SONIC】の倍もあるほど巨大なAAが動き出した。 塗装さえされていない金属剥き出しの機体が、周囲のビルから吹き出す炎に照らされて不気味に輝く。 人間で言えば頭にあたる部分のど真ん中に1つ取り付けられたセンサーが赤く光った。 赤い視線は長瀬を向いている。 そして【キクロプス】と仮称されたその機体は長瀬に向かって足を動かし始めた。 『シゲ、コクピットどこ』 『腹やな。頭部に生体反応はあらへん』 指令室の音声が無線を通して聞こえてくる。 『長瀬。聞こえっか?』 そして山口の問いかける声が届き、長瀬はそれに応えた。 『大暴れしてくれた馬鹿にはいろいろ吐いてもらわなきゃなんねぇ。頭狙え。動きを止めるんだ。死なすなよ』 「了解」 短く答えて、長瀬はマニュピレーターの操作をガンモードに変えた。 目の前の画面に照準が表示される。 『APライフル、充電率80%。長瀬、微調整はこっちでする。丸と四角が重なったら撃ちや』 城島の声が聞こえたと同時に、照準の中に丸と四角が現れて揺れる。 『充電率95、97、98、99、100%。APライフル使用可能』 長瀬は画面の動きに集中した。 狙うは敵機の頭部。 照準が小さな音を立てて次第に近付いていく。 そして。 『撃て!!』 2つの図形が重なった瞬間、声と同時に長瀬は引き金を引いた。 青白い光線が銃口から発射され、敵機の頭部を貫く。 同時に受ける反動に、引っくり返らないように足を踏ん張る。 そして直後。振動としか感じられないほどの爆音が轟いた。 後に聞いた話によると、あ、俺死んだかも、と長瀬は本気で思ったそうな。 「何で山が半分吹っ飛ぶの!!!?」 首にコルセットをはめた松岡が、ベッドの上に身体を起こしながらギャンギャン吠える。 「いやぁ、威力下げたつもりやってんけど、いまいち失敗やったわ〜」 「何回地形変えるつもりだよ!!!!」 「まぁいいじゃねぇか。テロリスト生け捕りにできたんだし」 「「良くない!!」」 義兄弟2人が声を揃えて怒鳴り付けた。同時に年長2人が引き吊った笑顔を浮かべて口を閉じる。 そんないつも通りのやりとりを、長瀬は笑いながら見ていた。 「とりあえず、リーダーしばらく武器開発禁止」 「えぇ!?そんな殺生な!!」 「兄ぃも見逃したらダメだからね!」 「・・・・・・・へーい」 いつになく厳しい松岡の口調に、視線を明後日の方向に向けながら山口は頷いた。 「・・・・・・・ヒドイわぁ」 不意に、ガックリ肩を落とす城島と視線がかち合う。 すると城島はふんわりと苦笑を浮かべて長瀬の頭を撫でた。 「はよ元気なりぃな。退院したら焼き肉連れてったるわ」 「ホント!?」 「うん。ホンマ」 『焼き肉』という言葉にキラキラと目を輝かせた長瀬に、城島は一段と笑みを深くした。 「あ、シゲ俺も」 「ゴチになりまーす」 「俺○々苑の焼き肉がいい」 「お前らも!!!?」 財布が!!と悲鳴を上げる城島に、一同が大爆笑した。 そんなこんなで一日が終わる。 その後、静かにしてくださいと、5人揃って看護士にこっぴどく叱られたのはまた別の話。 2008/12/07
▲TOP チームVの苦労
『また始末書だったらしいぜ』 『今度は山の形を変えたらしい』 『特殊対策部隊ってスゲーな』 昼休みに耳にした声がシクシクと胃をつついている。 AAに乗るのは嫌いではないが、乗るたびに風評を思い出して胃が痛くなる。 後から井ノ原に胃薬もらおう。 そう思いながら、坂本は自機を作戦の予定位置に進めた。 日の出前に配置を完了してしまわないと作戦に支障が出るからだ。 ビルの陰になる位置で、跪くように待機しているもう1機のシルエットを確認して、坂本はパネルを操作する。 表示されたのは周囲の地図。そこには自機も含め3機のAAの反応があった。 「こちら【20TH-C】。配置についた」 『こちら【COMING】。配置オッケーだよー。いつでも飛び出せるし!』 『こちら【ThunderBird】。俺もオッケーやで、まーくん』 無線を通して聞こえてきた緊張感のない声に、坂本は大きく溜息をつく。 「ケーン、とりあえず今は落ち着け。お前には一番に行ってもらうから。それと岡田。作戦中はまーくん呼ぶな」 『はーい』 『あ、ゴメン、まー・・・・・・・坂本君』 相変わらずの軽い声と、少し落ち込んだ声が届いた。 「・・・・・・・まぁいい。現時刻は0545。作戦開始は0600ちょうどだ。動きは分かってるな」 『『アイ、サー』』 「長野、剛。調子は?」 坂本は別の回線を開き、司令室で待機しているチームメイトを呼び出した。 『いいよ。問題なし』 『武器系統もオーケー』 その応答に、了解と返し、坂本はマニュピレーターのハンドルを握り締めた。 「現時刻から警戒態勢に入る。各自打ち合わせ通りに。ただし」 そこで坂本は言葉を切り、大きく深呼吸をする。 「死ぬなよ。自分の命を一番に考えろ。ヤバイと思ったら退避だ。いいな!」 4つの了解という返答が届き、回線が一時切断された。 傍受を防ぐため、作戦開始までは連絡をとることはできない。 ・・・・はずが、1本の通信が入る。 坂本が怪訝な表情を浮かべて回線を繋ぐと、先ほどまでは聞こえなかった声がした。 『坂本君』 少し緊張を滲ませた声に坂本は苦笑を浮かべながら、どうしたと声をかける。 『医務士としては本当は許可できないんだから、さっさと作戦終わらせて帰ってきてよね』 「分かってるよ。でも流石に胃炎での職場放棄は気が引ける」 『胃潰瘍寸前なんだからね!分かってる!!?』 「分かってるよ。でもそれは原因に言ってくれ」 もう笑うしかできない状況に笑いながら坂本が言うと、無線の向こうが小さく唸った。 『ゴメン。それだけは無理』 「それも分かってる。できるだけ早く帰るから、胃薬用意しといて」 『了解。じゃあ』 ブツンと音がして通信が切れた。 いつもは軽い口調の部下の心配し過ぎな様子に、坂本はさっさと終わらせようと決心した。 突入と同時に激しい撃ち合いが続く。 敵もAAの投入を予想していたのか、最新型を導入してきていた。 後方支援専門の坂本の機体【20TH-C】には最前線で戦うほどの強度も装備もない。 エネルギーシールドを展開しながら、行動指示を出していた。 『坂本君!』 「長野!健と岡田の損傷レベルは!!?」 『損傷レベル1だけど、このままじゃ制圧までもたないよ!一掃しなきゃ!』 「何かくれ!広域掃射できるやつ!」 目の前に迫ってくる敵機を撃墜しながら坂本が叫ぶと、少し間を置いて、長野が答えた。 『・・・・・・・・・・あのね。ちょっと使ってほしいものがあるんだけど』 その声に含まれる嬉々とした色に、坂本は嫌な予感を覚えた。 「・・・・・・・・・・・何だよ」 『茂君と共同開発してたAPライフルの改良版ができたんだよね。この間は失敗したけど、実戦データが手に入ったからちゃんと調整できたんだ』 「APライフルは禁止喰らっただろ!!」 『そんなのどうにかなるに決まってるじゃない』 さらっと聞こえてきた声に忘れていた胃がキリキリと悲鳴を上げ始める。 けれど否と言えるはずもなく。始末書かと溜息をついて、坂本は言葉を返した。 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・大丈夫なんだろうな」 『もちろん。信じてよ』 どの心配事に対するもちろんなのか、いささか不安ではあったが、可愛い部下を助けて手柄を上げるためにも腹を括るしかなさそうだ。 「あー!もう分かったよ!!早く転送しろよ!!!」 『了解♪』 鼻歌でも歌いだしそうな返事に、早くも坂本は後悔した。 そして、その後悔は後々まで引き摺る結果となった。 カップに注がれた紅茶が白い湯気を立ち上らせていた。 目の前に並ぶケーキの中から目を付けておいた一品を皿に載せ、箱を後方に回す。 「わー!ケーキだ!!」 甲高い声とともに背後でケーキ争奪戦が始まった。 「岡田は食べないの?」 「んー。残り物でいいや」 「謙虚だねぇ」 「まーくんは食べられへんから、食べれるだけ幸せやと思う」 「確かにね」 作戦は確かに上手くいった。 予定を上回るかなりの損害が出たのだが、何故かそれに関してのお咎めはなく、完全に純粋な手柄としてカウントされている。 しかしその結果、坂本は心労から本格的に胃炎を再発して、現在病院のベッドで唸っていた。 多分、その原因は作戦にだけあるのではないだろう。 可哀想に。 内心そう思いながら岡田は小さく手を合わせ、残ったケーキを頬張った。 2008/12/07
▲TOP チームAの本業
鉄骨剥き出しの格納庫の中に、新品も同然のAAが2機並んでいた。 片方はワインレッドのボディに黒のラインが入っており、もう片方は白地に濃い桃色で紋様が描かれている。 2機とも新品同様に傷一つ無く、光り輝いていた。 その横手、元々何もなかった空間にプレハブで部屋が作られている。 その中で、二宮はのんびりとお茶をすすっていた。 多数決で敷くことに決めた畳の上に、全員でお金を出し合って買った炬燵があり、コンクリ打ちっぱなしのために冷える足を暖めてくれている。 これを幸せというんですねぇ、と内心思いつつ、買い出しで手に入れた煎餅を頬張った。 その時、カンカンと走る音が耳に届く。 この足音は・・・・・・・と予想を立てたと同時に部屋の扉が開いた。 「キャプテンいる!?」 靴を脱ぎ捨てるように入ってきた相葉は、そう訊きながらいそいそと炬燵に足を入れた。 「キャプテンならここで寝てますよ」 二宮は自分の横、相葉の正面の席を指差す。 その言葉に相葉が腰をあげて上から覗き込むと、くすんだ金色が見えた。 「あー、これキャプテンの足だったのか!」 叫びながら布団を捲る。炬燵に収まるように小さく丸くなった大野の足が見えた。 「そっかー。寝てんのか、キャプテン。どうしよ」 「いい加減起こしてもいいけど、どしたの?」 「んー、松岡君がね、1時間後に訓練だから起こしてこいって言っててね」 そう言いつつ煎餅をかじる。パキンと良い音がした。 「翔君と潤君来たらでいいんじゃない?どうせ全員で訓練なんだし」 「それもそっか!あ、そういえばさ、茂君とぐっさんから【SONIC】と【Midnight】の学習データもらったよ」 「じゃあ後でインストールしましょう。はい、相葉さん、お茶」 「ありがとー」 再びまったりした空気が流れる。 しかしそれもまた、すぐさま外からの雑音に遮られた。 「だからさー、もう少し上限上げたいんだよ」 「ダメだって。これ以上上げたらG負荷が大きくなりすぎる」 「それは相葉ちゃんに調整してもらえばいいんじゃないの」 「だからさ、そういう問題じゃないんですよ」 そんなやりとりが聞こえてきて、ガチャリと扉が開いた。 「ちーす」 「ただいまー」 簡単な挨拶をしながら櫻井と松本が入ってくる。そしてやはり同じくいそいそと炬燵に入ろうとした。 「コラ、智君!こんなとこで寝たら風邪ひくでしょ!」 松本に先を越され入れなかった櫻井が、一番場所をとっていた大野を起こし始める。 「んー」 「んーじゃなくて。早く起きて」 ゆさゆさと激しく揺すられて、ようやく小さく唸りながら、寝惚け眼でもそもそと大野は身体を起こした。 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・はよ」 「早くないですよ、キャプテン」 「まぁ遅刻しそうにはないから大丈夫じゃない?」 松本が時計を見ながらそうフォローを入れる。 「・・・・・・・あれ、訓練何時からだっけ」 「イチゴーフタマルです」 「・・・・・・・あと30分寝れた」 「もー、そんなこと言って!また太一君に怒られるよ!」 布団の中に腕を突っ込んで顎を机に乗せる大野に、松本がため息をつき、二宮がお茶を出した。 「あと30分なんでしょ?パイロットスーツに着替えた方が良くない?」 「大丈夫」 櫻井が心配して声をかけると、大野は着ていた作業用のツナギの前チャックを胸の辺りまで下ろす。 そこからは、エナメルのような艶のある、黒いハイネックのパイロットスーツが見えた。 「はや!」 「わ。準備万端じゃん」 「こういうときだけ用意が良いんだから」 「よく寝れるね、それ着て」 自慢気に見せた大野に、四者四通りの反応を返す。 「アナタ本当に好きですね、AA」 「うん。好き」 最高の笑顔を浮かべて大野は頷いた。つられて4人も笑顔を浮かべる。 「さすが警察学校で一番の成績取ってただけはあるよね」 「操縦だけだったけど」 「智君、座学は壊滅的だったもんね」 「うん。翔君は実技がダメだったよね」 「うっ・・・・・・・それは言わないで・・・・・・・」 櫻井の呻き声に全員が声を上げて笑った。 そして松本がふと時計を見る。何だかんだしている内にあと15分ほどで15時になる頃だ。 「そろそろ行かない?」 「おぉ。ホントだ」 「スタンバイモード解除していきましょか、相葉さん」 「だね。インストールもしとこう」 「よっこらせー」 「キャプテン、爺臭いよ!」 「しょーがねーだろー。出ちゃうんだから」 「歳ですからねー」 ゲラゲラ笑いながら5人は部屋を出た。 「じゃー、今日も訓練ガンバロー」 いまいち気合いの入らない大野の掛け声に、苦笑しながら声を合わせ、5人は格納庫から出ていった。 2008/12/09
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