r e w a r d g o o d a n d p u n i s h e v i l
「こんにちわ!!」
大きな声で少年が、彼にそう声をかける。
彼は声は出さず、それでも笑顔で片手を上げた。
それを見て、少年は嬉しそうに笑顔を浮かべて走っていく。
背中のランドセルは、背負っていると言うより背負われていると言った方が正確かもしれない。
少年を見送って、彼は欄干から飛び降りた。
着地した縁側を作り上げている床板は随分古くなっていて、衝撃に悲鳴を上げる。
彼は観音開きの扉を開けて、社の中に帰っていった。
神社の裏には小さな平屋があった。
神主親子が住んでいるそこも、社同様年季が入っている。
ガラガラと引き戸を開けて、少年は声を上げた。
「ただいま!!」
「おかえりなさい」
その声に、彼と面差しの似た女性が奥から現れる。
「今日ももあいさつしてきてん!ちゃんと返してくれたんよ!」
「それは良かったわねぇ」
「でもやっぱ顔はちゃんと見えへんの」
「あら、そうなの」
嬉しそうに報告する少年に、彼女も微笑んだ。
「さぁ、手洗ってらっしゃい」
「はぁい」
バタバタと床を鳴らして少年は奥に消えた。
彼女は社の方に向かって頭を下げて、そして奥に戻っていく。
その時、生温い風が家の中に吹き込んだ。
「見つかった?」
その問いに、帰ってきた式神は首を横に振った。
「東の方には見当たらへんかった」
「なら残るのは北の方か」
彼は小さくそう呟く。
「頼むから、出来るだけ早く見つけたって」
「・・・・・・人手が足りなすぎや。俺1人じゃキツいて」
「一応他のヒトにも頼んどんねんけど・・・・・・」
彼はため息をついた。
「・・・・・・何でこっから出てったんや・・・・・・」
少年を寝かしつけて、彼女は居間に戻る。
「寝た?」
晩酌をしていた男が顔を上げた。
「ええ。・・・・・・ねぇ、あなた」
彼の正面に腰を下ろして、彼女は口を開く。
「あの子ね、視えるみたいなの」
「・・・・・・そうか」
彼はグラスを置いて、唸るように呟いた。
「・・・・・・そうだよな。僕も君も視えるんに、あの子が視えん方がおかしいもんな・・・・・・」
そして小さくため息をつく。
「・・・・・・あのさ・・・・・・戻ろうと、思うんだ」
「・・・・・・本家に?」
「うん。・・・・・・最近この辺の空気が淀んできてる。多分、近い内に良くないことが起こる。
・・・・・・そしたら僕は君とあの子を守りきる自信がない」
項垂れる彼の傍に寄り、彼女は顔を近づけた。
「あなたが決めたなら構わないわ。・・・・・・私もあなたを守りきれないから・・・・・・」
「ありがとう。・・・・・・明日にでも連絡してみようと思う」
「そうね。なら千貴様にも挨拶に行かなくちゃ」
時計の針の音が響く。
紙の擦れる音の合間に、小さく電子音がしたような気がした。
少ししてそれは止んで、擦り足の足音が聞こえる。
「光一様」
襖の向こうから呼ぶ声がした。
「お電話です」
返事をすると女中がそう言って入ってきた。
「・・・・・・・・・・・こんな夜中に?どなたですか?」
「堂本様と仰る方です」
「・・・・・・?・・・・・・ありがとうございます」
心当たりのない名前に首を捻りながら、光一は電話を受け取った。
「はい、お電話代わりました」
女中が出ていくのを確認して、保留を解除する。
『・・・・・・・・・・・・光一君?』
電話の向こうで低い声が問いかける。
「はぁ、そうですが・・・・・・」
『・・・・・・こんな遅くにゴメン。まだ起きてるような気がしたから・・・・・僕が解るかな』
「・・・・・・もしかして義兄さん!?」
『・・・・・・久しぶり。10年くらい振り、かな』
光一の声を遮って、電話の向こうは苦笑した。
「・・・・・・っ今どこにいるんですか!?」
『千貴神社だよ。彼女と息子も一緒だ』
電話の向こうから聞こえた声に、光一は言葉なく式神を呼び戻す。
『・・・・・・今更だけど、お願いがあるんだ』
「・・・・・・何ですか?」
電話の主をそこから動かさないように話に乗る。
『彼女と息子を預かってくれないか』
「・・・・・・どうかしたんですか?」
予想外の内容に、光一は思わず眉を寄せた。
『・・・・・・息子がね、視えるみたいなんだ』
「お義兄さんと姉さんの子なんだから当然やないですか」
『いや、それは初めから解っとったよ。でもね、僕らが視えないモノも見てるんだ。
封印されてるはずのあの神とか』
「・・・・・・・・・・・・それはホンマですか?」
『ああ。千貴神社はあの神を奉っとる。文献によると何代か前の主がここに封印したらしい。
封印は緩んできてるだろうけど、それにしても僕らが視えな』
その言葉を遮るように、電話の向こうで大きな音がした。
「!?・・・・・・義兄さん!?どないしました!?」
『・・・・・・何でこんな・・・・・・・・・・・・にが・・・・・・』
雑音混じりで途切れ途切れに音声が届く。
そして次の瞬間、電話は切れた。
「・・・・・・え・・・・・・?」
「光一、どないした?」
ちょうどその時、呼び戻した式神が現れた。
「ちょっ・・・・・・千貴神社や!!はよ連れてって!!」
「えぇ!?どないしたん、いきなり・・・・・・」
「はよせんと死んでまう!!」
光一の迫力に、式神は慌てて彼を抱えて姿を消す。
ちょうど丑三つ時に近付いた時の事だった。
突然の大きな音と、感じた寒気に少年は目を覚ました。
何とも言えない不穏な空気が流れている。
少年は不安になって、布団を被って部屋の隅に移動した。
全くの無音が逆に恐怖を駆り立てる。
「・・・・・・おかーさん・・・・・・」
少年がポツリ呟いた時、襖が静かに開いた。
「あら、どうしたの?」
「・・・・・・っおかーさん!!」
襖の向こうから現れた女性に少年が飛びつくと、彼女はやんわりと微笑んだ。
「何かあったん?変なかんじする・・・・・・・・・・・・おかーさん?」
自分を抱き締める手に妙な力が入っているのに気付いて、少年は顔を上げる。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・誰?」
そして彼女をまじまじと見つめ、驚いた顔でそう言った。
「何言ってるの、お母さんでしょう?」
「ちがうっ。おかーさんやけどちがう!おかーさんやない!!」
少年が騒ぎだすと、彼女の顔から表情が消えた。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・視えるの?」
「はなして!いやぁ!!」
「・・・・・・視えるのね・・・・・・・・・・・・・そりゃあいい 】
その瞬間、声が変わった。
彼の母親の顔が、一変して醜く歪む。
「ぅわああああああ!!」
声を上げ、逃げ出そうとするが肩をがっしり掴まれていて動けない。
見る見る内に母親はヒトではないものに変わっていく。
ドス黒い肌に鋭い爪と牙。噎せ返るほどの悪臭が漂う。
角を生やした頭では真っ赤な口が三日月を描いた。
【 あの方の言葉通りだ。これを他の奴等に譲るのは勿体無い。一息に喰ってやろう 】
そしてそれは大きく口を開く。
「いやだぁ!!たすけて!!」
彼が叫んだ瞬間、鬼の頭が吹っ飛んだ。
突然解放されて、畳に尻餅をつく。
黒っぽい液体が飛び散ったが、どこかに付着する前に消えていった。
「茂!!」
背後から名前を呼ばれ、少年は振り返る。
「・・・・・・わあぁぁぁあん!!」
「茂っ!!怪我はない!?」
その姿を見た途端泣き始めた少年を、彼女は手にしていた弓を降ろして抱き締める。
「ごめんね、茂。怖かったよね」
少年は何かを言っているようだが、しゃくりあげていてよく判らない。
彼女はその頭を愛おしそうに撫でてた。
「ごめんね、怖い思いをさせて」
「・・・・・・うぅ・・・・・・」
「ここは神様の住んでる土地だから、大丈夫だと思ってたの。
いつかきっとこうなること、判ってたのに何もしてなかったお母さん達のせいね」
少年の涙を拭いて、彼女は彼を抱き上げた。
「もう大丈夫。あんなお化けが来ないようにお呪いをしてあげる」
「・・・・・・おまじない・・・・・・?」
「そう」
彼女はそう微笑んで、少年をその部屋の押入に連れていく。
「いい?このお守りをしっかり手で持ってここにいるのよ。絶対にここから出ちゃダメだからね」
そして少年に小さなお守りを渡し、押入の中に入らせ、自分も中に入った。
「このお守りはね、こわ〜い鬼を食べちゃう、すっごく強い神様のお守りなの。
だからこれを持ってれば神様が守ってくれるのよ」
「・・・・・・じんじゃのおにーさん?」
「そう。あのお兄さんは神様。茂のこと守ってくれるから」
「うん」
鼻を啜りながら頷いた少年を彼女はもう一度抱きしめる。
「ねぇ、茂。これから言うこと、まだ茂には難しいかもしれない。でも覚えておいてね」
彼女は少年の頬に触れて、額と額を合わせた。
「これから先、こういう怖い事がたくさんあると思う。でも大丈夫。
貴方は強いから、あんなものに貴方は負けない。心配しないで。神様が守ってくれる。
だから約束。
絶対に、あっち側に行かないで。悲しみとか憎しみとか、そんなものに負けないでね。
お父さんもお母さんも、ずっと茂を愛してるから。それだけは忘れないでね」
彼女は涙を滲ませて、少年にそう言った。
「うん」
母親の言うことの意味は半分くらいしか判らなかったが、少年は素直に頷く。
「・・・・・・じゃあここでいい子にしててね」
「・・・・・・・・・・・・おかーさんどっかいってまうん?」
彼女の言葉に、少年は心細そうな表情を浮かべた。
「お母さんね、お父さんの所に行かなきゃいけないの」
「戻ってくる?」
それに対して彼女は微笑んだだけで答えなかった。
「ここから出ちゃダメだからね。・・・・・・きっと光一が来てくれるから。光一が来るまで出ちゃダメだからね」
「ぼくこーいち知らへんよ?」
「大丈夫。すぐ判るから。・・・・・・さぁ、少し眠って。疲れたでしょう?」
そう頭を撫でられて、突然眠気が襲ってきた。
少年は小さく頷いて目を閉じる。
彼女は彼の被っていた掛け布団を持ってくると、彼をくるむようにした。
そして1度だけその髪に触れて、押入から出た。
音を立てないように扉を閉める。
そのまま彼女は床の弓を取って、その部屋から出ていった。
どれだけ眠っていたのか。
不意に少年は目を覚ました。
もそもそと布団から抜け出て、目を擦る。
その時持っていたお守りが手から落ちて、彼は慌てて拾い上げた。
そして自分がどうしてこんな所にいるかを思い出した。
「・・・・・・・・・おかーさん・・・・・・・・・おとーさん・・・・・・・・・?」
頼るべき人の名前を呼ぶと、急に心細くなった。
そして少年は居ても立ってもいられなくなって、押入の戸を開けた。
家の中は真っ暗で、開けっ放しの襖から入ってくる月明かりだけが頼りに出来る。
すえた臭いが辺りに漂っていて、思わず口元を覆った。
異様な程の無音の世界に、鼓動の音がやけに耳につく。
廊下に出る。
1歩踏み出す度に、古びた床板がギシリと悲鳴を上げた。
廊下の突き当たり。
襖を開けっ放した部屋があった。
頭の何処かで誰かが警告を発しているのを判っていて、彼は足を止めなかった。
近付く毎に異臭は酷くなる。
噎せ返るほどの悪臭に涙目になった。
1歩、また1歩進み、真っ暗の部屋の中に白い棒のようなモノが見えた。
夜の街灯のように白く浮かび上がるそれに、恐怖よりも興味の方が勝った。
足早に部屋に向かい、その中を見て、少年は固まった。
真っ暗な部屋の中。
何故か黒ずんだ畳の上に、ぐちゃぐちゃな何かが散らばっていた。
「・・・・・・・・・おかー・・・・・・・・・さん・・・・・・・・・?」
小さくそう口に出し、ゆっくりと部屋の中に足を踏み入れた。
訳の解らない塊は大きく2つ。
部分的には見たことのあるモノがあったが、頭が受け入れようとしないのか、何なのか解らない。
黒ずんでいる部分を踏むと、ねちゃりとしたモノが足に付いた。
その先にあったモノを見て、少年はその場に膝を着いた。
「・・・・・・・・・あ・・・・・・・・・」
それに手を伸ばして、もう1つの塊にも同じようなモノがあることに気付いた。
「・・・・・・・・・」
【 出てきたぞ 】
そのままの体勢で動けずにいると、背後から声がした。
とっさに振り返ると、そこにはたくさんの光る目があった。
【 何処に隠れていたんだ 】
【 美味そうじゃないか 】
【 頭をくれ 】
【 ならば儂は足を貰う 】
【 胴を貰おう 】
【 待て。それでは俺の取り分が無いじゃないか 】
ざわざわと騒ぎだすその目に、恐怖でそちらを見たまま尻餅をついた。
【 ならば速い者勝ちだ 】
言うが速いか、一斉に少年に襲いかかってきた。
「・・・・・・・・・っ!!」
しかし、少年が声を上げようとした時、耳の真横を通って腕が1本伸びてきた。
同時に最前列の鬼が動きを止めた。
【 どうしたんだ!? 】
【 何故止まる!? 】
後ろの方から声が上がる。
次の瞬間、動きを止めた鬼達が、一斉に灰のような細かい粒子になって破裂した。
その残骸から白い煙が立ち上り、少年の頭上を通って後ろに吸い込まれていく。
残骸も床に落ちる前に風に溶けて消えていった。
『 ・・・・・・・・・さぁ・・・・・・・・・食事といこうか 』
嬉々とした低い声が響きわたる。
【 ひいいいいい!! 】
【 何故きぶせがここにいる!! 】
【 助けてくれ!! 】
残った鬼は口々に悲鳴を上げてそこから居なくなった。
静かになった部屋の中で、しかし少年は動けないでいた。
そこから離れることも声を出すことも叶わない。
押さえつけられるような威圧感に圧倒されて、何も出来なかった。
『・・・・・・・・・お前・・・・・・・・・城島の血をひいているな・・・・・・・・・?』
背後にいる何者かがそう訊く。
『・・・・・・・・・・・・・・・・・・なぁ、小僧。いいことを教えてやろうか』
少年が黙っていると、それは咽喉の奥で笑って、言った。
『お前の両親を殺したのは羅刹だ』
その言葉に、少年の肩が小さく揺れた。
『正確に言うと羅刹の配下の鬼だがな』
「・・・・・・・・・らせつ・・・・・・・・・」
少年の呟きを聞いて、背後の何者かが低く笑う。
『よく見ろ小僧。お前の目の前にあるのは父親と母親だぞ?・・・・・・・・・憎くはないか?』
笑いながら彼にそう訊いた。
『腹は立たないか?殺してやりたくはないか?お前の両親と同じようにしてやりたくはないか?』
耳元で囁く声に、少年は目を見開く。
「・・・・・・・・・そつき・・・・・・・・・」
そしてそれに応えるように少年が口を開いた。
「うそつきうそつきうそつきうそつきうそつき!!おかーさんとおとーさんにはなにもしないって言ったのに!!!!」
突然、堰を切ったように叫ぶ。
そしてそのまま泣き始めた。
床に手を着いて泣き喚く少年を見て、背後の何者かが満足そうに低く笑い声を漏らす。
『その怒りを忘れるな、小僧』
少年の耳元で、それは焚きつけるように囁いた。
『そうすればお前は強くなる。誰よりも・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・悔しいか?』
そして、突然変わった口調に少年は振り返る。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・神社のおにーさん・・・・・・・・・?」
そこにいたのは日頃から挨拶をしていた神社にいた誰かだった。
『仇を討ちたいか?』
初めて見えたその人の顔に見とれていると、そう問いかけられた。
「・・・・・・・・・かたき・・・・・・・・・?」
『仕返しをしたいか?』
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・したい・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・約束やぶったのはゆるさない・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
『なら手を貸してやる』
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・手伝ってくれるん・・・・・・・・・・・・・・・・・・?」
『あぁ、そうだ。俺は鬼を喰う鬼だから。お前が鬼と戦うなら、俺はお前の味方になろう』
「・・・・・・・・・おにをたべる・・・・・・・・・」
『ただし、強くなれ』
それは少年の頭に手を置いて言った。
『俺と共に戦って、足手纏にならないくらい強くなれ。そしたら従ってやる』
「・・・・・・・・・強くなったら手伝ってくれるん・・・・・・・・・?」
『約束しよう』
「・・・・・・・・・やぶらない?」
『もし破ったら、相応の報復をすればいい』
「ほーふく?」
『仕返し』
「・・・・・・・・・・・・・・・・うん・・・・・・・・・・・・・・・・」
コクリと少年が頷くと、それは安心したように笑みを浮かべた。
『次に会う時には俺じゃないかもしれない。でも忘れないでくれ。お前が強くなれば、アイツに奪われることはないから』
そして少年の頭をくしゃくしゃと掻き回して、立ち上がる。
『・・・・・・・・迎えが来たみたいだな』
その言葉に、少年は部屋の入り口の方に視線を向けた。
同時に背後の気配が消える。
そして現れた2人の青年は、惨状を目撃して言葉を失った。
「・・・・・・・・これから、君には現当主の元でいろいろと勉強してもらおうと思う」
周りを取り囲むように座る大人達の言葉に、少年は虚ろな目を上げた。
「血統から考えれば、堂本の息子よりも直系の君が当主にふさわしいからな。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・まぁ、もし君にその気があれば、だが」
「・・・・・・・・・・・・・・・・当主になれば強くなれますか?」
少年は物怖じすることなく、そう訊いた。
「強くなければ当主にはふさわしくない。当主になると言うなら、君には何よりも強くなってもらう」
その答えを聞いて、少年は即答した。
「なら、なります」
──── だってそうしなければあのヒトは味方になってくれない
「誰よりも強く」
──── 神をも従えるほどに
「ならば後はすべて現当主に任せよう。良いな、光一殿」
「・・・・・・・・はい」
光一は眉を寄せて納得いかない様子で、しかし了承した。
「何であんなこと言ったんですか、茂君」
縁側に座っていた茂に、光一が不満そうな声をかけた。
「茂君にはこうなってほしくなかったから、この1年努力してきたのに。
何のために茂君の見鬼の力封じたと思ってるんですか」
「やっぱこーちゃんのせいやったんや、見えんくなったん」
茂は光一を振り返り、へらと笑った。
「判ってたのに何でそれを無駄にするようなことするんですか」
「やって強くなりたいもん」
「ならなくてもいいですよ。ただでさえ茂君は狙われやすいんです。それなのに当主になるなんて・・・・・・・・。
言い意味でも悪い意味でも城島はあっちの世界とこっちの世界で有名なんですよ。
当主が狙われるのは必須条件です。わざわざそんなこと・・・・・・・・そんな子に育てた覚えはないですよ!」
「こーちゃん、僕を育ててへんがな」
泣き真似をした光一に、茂は苦笑いを浮かべる。
「まぁ冗談ですけど。強くなってどうするんですか」
「・・・・・・・・ないしょ」
そう言って、口元に指を立てた。
「教えてくださいよ」
「うそつきに針千本飲ましたらなあかんから」
「・・・・・・・・は?」
茂の口から出てきた言葉に、光一は拍子抜けして声を上げる。
「は、針千本?」
「そう」
──── 二十歳になって、私の仲間になるなら、お前の父と母に手は出さないと約束しよう
「・・・・・・・・・・・・・・・・うそつき」
守られなかった約束の言葉を思い出して、茂は小さく呟いた。
「だから強くなりたいねん」
「・・・・・・・・・・・・・・・・じぃさんたちの前でなるって言ってしまったからには仕方ないですね・・・・・・・・」
光一は小さくため息をついて、茂の額に触れる。
「少し目を閉じといてください」
聞き取れないくらいの小さな声で何かを呟いた。
「えぇですよ」
その言葉に目を開く。
変わりない風景の中に、今まで視れなかった視慣れたものが広がっていた。
「封印解きました。また視れるようになりますが、逆に危険も増えますから。ホンマに強くなってくださいね」
「うん。こーちゃん、ありがとぉ」
しょうがないという様子で苦笑を浮かべた光一に、茂は微笑んだ。
「いつか俺みたいに式神と契約すると良いですよ」
「うん」
「とりあえず、お茶にしましょうか」
剛が用意してくれてますから、と光一が立ち上がる。
その後ろ姿を目で追って、茂も立ち上がった。
「・・・・・・・・見てろ、絶対に強くなったるから」
そしてそう呟いて、光一と剛の待つ部屋の中に足を踏み入れた。
暗い・・・・!!(汗)
ということで、城島さんと山口さんの出会いです。
山口さんというよりは、鬼伏神自体との出会いになりますね。
まだ封じられてないので、神様の部分とぐっさまの意識が混在してます。
これはとりあえず文体で区別してます。(通常がぐっさま、イタリックが神様)
一応70707打で話が出た約束が何なのかはこれでネタばらしが出来たかな、と。
過去話は本当に暗くなりますね・・・・・・・・。グロくてすみません・・・・・・・・・。
ああ、一応なんですが、千貴神社ですが、実際には存在しないです(多分)
千貴は殲鬼が訛ったもので、鬼伏神を祭っている神社という設定です。
で、現場周辺には乱立しているので光一さんたちは辿り着くのが遅れたわけです。
本編に入れる場面を見失いましたので、ここで。
というか、本当に、予想以上にストーリーが出来てきてビックリです(汗)
リクエストだけで連載って、出来るんですね・・・・・・・。
過去話はどうあれ、この先どうなるかはリクエスト次第なんですね。楽しみですv
いかがでしょうか、友海さま。
お気に召さなかったら書き直しますので、遠慮なくおっしゃってくださいね。
改めまして、リクエストありがとうございました!!
そして、90000打、ありがとうございました!!
2006/07/16
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