ずっと昔から、誰にも知られないように、こっそりと、思い描いていたモノがある
それは、夢物語だって、解ってはいたけれど
でも、ずっと、ずっと、捨てられないでいるんだ
『明日また作ってくるから!!』
『じゃあ明日ね!待ってるから俺!!』
ふとした瞬間に前日のやりとりが思い出される。
何となく嬉しくて、口元が弛んだ。
自分の立場からして不味いことだとは解っていたが、素直な気持ちはどうすることも出来ない。
相手は悪魔で、かなり上のランク。もしかしたら将来的に脅威になりえるかもしれない存在。
対して自分は天使で、しかも最近風のエレメンツに任命されたばかりだ。
決して馴れ合ってはいけない立場なのに、正直なところ楽しみで仕方ない。
もらった物はおいしかったし、敵意は感じられなかった。
そもそも、自分と普通に接してくれたことが嬉しかった。
周囲は一部を除いて近寄ってもこない。
話しかけるのも苦手だから、誰とも関わらないことがほとんどだ。
むしろ誰かと関わることの方が珍しい。
それなのに、あの悪魔は話しかけてくれて約束までしてくれた。
そこまで考えて、ノックする音が遮った。
「隊長。2隊隊長がお呼びです」
入ってきた誰かがそう言った。
──── そう言えば
長野は考えを巡らせながら立ち上がり、部屋を出る。
「・・・・・・・・・・・・明日っていうのは今日のいつなんだろ・・・・・・・・・・・・」
ぽつり呟いて、廊下を進む足を止めた。
響く音が止む。
窓の外に視線を向けると、鬱蒼と木々が生い茂る森が見えた。
「・・・・・・・・・用が終わったら行こうかな」
あの悪魔がいつ来るかは判らないが、待つのも悪くないかもしれない。
そう思い、再度歩きだそうとした時、後ろから名前を呼ばれた。
「長野」
「・・・・・・・・・あ」
振り返った先にいたのは、以前上司だった天使だった。
「元気そうだな。隊長としてちゃんとやれてるか?」
「はい。ちゃんと戦ってます。我侭も言ってないです」
微笑んで訊いた彼に、長野はぎこちなく笑いながら答えた。
「そうか。偉いな。でも我侭は言ってもいいんだぞ?」
微かに首を傾げた長野の肩に手を置いて、彼は顔を覗き込む。
「嫌なら嫌と言ってもいいんだ。・・・・・・・・・戦いたくないならそう言いなさい」
その言葉に、長野は心許ない表情を浮かべ、視線を泳がせた。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・戦うのは嫌・・・・・・・・・じゃない、です」
長野の発言に彼は悲しそうな顔をした。
「・・・・・・・・・そうか」
しかしすぐ笑顔に戻る。
「ならいいんだ。何かあったら俺に言ってくれ。力になるから」
そう笑って、彼は去っていった。
その後ろ姿をぼんやりと眺め、見えなくなってから長野も歩きだした。
「何ニヤニヤしてんの?」
机の端に顎と手を乗せて覗き込んだ健が、片方の眉を跳ね上げて訊いた。
「・・・・・・・・・別に」
坂本は手元の書類からそちらに、視線だけを向けて、手短に答える。
「ニヤニヤなんてしてねぇよ」
「ウソ!ずっとニヤニヤしてるっ!キモチワルイ!」
ジャンプして机から離れ、そのままソファに勢いよく座った。
「キモチワルイって、お前、ちょっとヒドくね?」
「昨日からず〜っと!森で何かあったんでしょ!」
「無いよ」
「じゃなかったらニヤニヤするようなこと無いじゃん」
「だからニヤニヤしてないって」
言い募る健に、坂本は苦笑しながら書類を机に置いた。
そして手元にあった判を押し、書類の山の上に積み上げる。
「ぜってぇウソだし。今だって笑ってんじゃん」
「・・・・・・・・・」
「ねぇ!何があったの!?」
黙って立ち上がった坂本に、健がソファに横になりながら訊いた。
「・・・・・・・・・欲しいモンができた、かも」
「“かも”?」
「まだ判んねぇけど、多分、欲しくなると思う」
口元に手を当てて坂本は答える。
「・・・・・・・・・どうやって手に入れるか算段してるわけねー」
大げさにため息をついて健は足を投げ出した。
「今はまだ様子見だよ」
「何なの、今度は」
楽しそうな口調に、健が坂本を見る。
「・・・・・・・・・白いモノ」
そう答えながら、面白そうに坂本は目を細めた。
健がその意味を掴みあぐねていると、突然部屋の扉が開いた。
「失礼します。王、よろしいですか」
入ってきた男が坂本に頭を下げる。
「どうした?」
「境界付近を警戒していた隊から応援要請が」
その言葉に空気が張りつめた。
「どこの隊だ」
「櫻井さんの・・・・・・・・・」
「櫻井?・・・・・・・・・俺が出る。今出れる奴も呼べ」
指示を受けて、男は走って部屋を出ていく。
坂本は椅子にかけてあった上着を羽織りながら健の方を見た。
「留守番頼むな」
「怪我しないでよ」
そう言って健は手を振った。
「善処する」
健の言い種に苦笑を浮かべながら、坂本は部屋から飛び出した。
氷の柱が乱立する雪原に、赤い紋様が描かれる。
それでも降り続く雪は、いたるところで発生している竜巻の影響で激しく吹き付けてきた。
「・・・・・・・・・退くに退けねぇ・・・・・・・・・」
近くに感じる敵の気配に、櫻井は動けずにいた。
「あー、しかも意外と重傷じゃねーか」
大腿を染める赤は止まる様子がない。
「・・・・・・・・・こんなことなら健君に治癒方法聞いときゃ良かった・・・・・・・・・」
はぁと小さくため息をつく。
(・・・・・・・・・天使1人にほぼ壊滅させられるなんて・・・・・・・・・)
そして奥歯を噛みしめた。
(ようやく1師団任せてもらえたのに!!)
心の中でそう叫びながら、着ていた上着を脱ぎ、傷口をきつく縛り付けた。
そして身を隠している氷柱の向こう側を覗く。
抜き身の剣を片手に敵が近付いてきていた。
その少し手前、小さめの氷柱の影に部下の姿が見える。
──── こいつだけでも逃がさなきゃ
そう思い、そちらに向かって小石を投げる。
【俺が囮になるから逃げろ】
目が合った瞬間に口の動きだけで伝えると、彼は真っ青な顔のまま小さく頷いた。
それを確認すると、櫻井は勢いよく立ち上がり、腰に下げていた剣を抜く。
「わあああああ!!」
そして目立つように大声を張り上げながら、周囲の様子を窺っていた天使に向かって走っていく。
がむしゃらに剣を振るって、逃げていくはずの部下から目がそれるように、大げさに突っ込んだ。
しかし。
「!!」
天使の一閃で、勢いよく吹っ飛ばされる。
そのまま背後にあった氷柱に激突して、かなりの大きさがあったそれはぶつかったところで大きく割れた。
一瞬息が出来なくて、世界が回る。
歪んだ視界の中で、逃がしたはずの仲間を、敵が投げた剣が貫いた。
そして、目の前に影が出来る。
「・・・・・・・・・・あ・・・・・・・・・・・・・・・・・」
──── 顔が、無い
何なのかよく判らない霞が全身をぼんやりと包んでいて、見えない。
天使がもう一つ持っていた剣を抜き、振り被る。
その瞬間、櫻井の周囲の氷原が轟音を上げて錐のように盛り上がり、天使を襲った。
「!!!?」
突然のことに驚いて動けずにいる櫻井をよそに、天使は瞬時にそれを避けて距離を取る。
舞い上がった粉雪で周囲が白く霞む。
天使の姿を確認することは出来なかった。
「大丈夫か!?」
盛り上がった氷が粉々に砕けると同時に背後に坂本が着地する。
「・・・・・・さ・・・・・・・・・坂本く・・・・・・・・」
坂本の姿を確認すると同時に情けない顔をした櫻井に苦笑を浮かべながら、櫻井の横で膝をついた。
「足やられたか」
「は、はい・・・・・・・・」
「あとは俺が何とかする。おい!回収できる負傷者全員連れて撤退しろ!!」
立ち上がって櫻井を庇うように前方に立ち、後ろに向かって声を張り上げる。
その声とともに数人がやってきて、櫻井を連れて行った。
「・・・・・・・さて。話し合いで通じる相手かねぇ」
少しずつ治まっていく霞の向こうに影が見えた。
坂本ほど背は高くない。
そのシルエットに既視感を覚えて、目を凝らす。
霞が消えたと同時に切りかかってきた剣を、咄嗟に抜いた刀で受け止めた。
そして確認した相手の顔に、言葉を失った。
「・・・・・・・お前・・・・・・・・・・・」
思わず呟く。
そこにあったのは、昨日約束を交わした、白い羽根を持つ者。
目を見開いて顔を強張らせる彼が後ろに跳び退るのと、坂本が刀を薙ぎ払うのは同時だった。
距離を取り、互いに見詰め合う。
──── 表情がねぇな
昨日出会った時の様子と比べ、坂本はそう感想を持った。
「・・・・・・・・・・・・退け。これ以上何もしないなら、こちらも攻撃はしない」
切っ先を持ち上げて長野に向け、坂本は静かにそう告げる。
カラン、と、乾いた音がした。
坂本は雪原に落ちた直刃の剣に目を遣る。
そしてそのまま背を向けた。
持っていた刀を鞘にしまいながら、その場を後にする。
──── 最悪だ。
そう思った。
何でここにいるの?
何でこんなふうになったの?
こんな
こんな結果を
望んでいたわけではなかったのに
もう、ダメだ
突然、空気が変わる。
慌てて振り返ると、長野が頭を抱えていた。
「・・・・・・・・・・・おい・・・・・・・・・・・・・・?」
声をかけても反応がない。
大気がざわつき始め、チリチリと焼けるような感触が肌を走り抜ける。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・だ・・・・・・・・・・・・・・・・・・やだ・・・・・・・・・・・・」
緊張が高まっていく中で、小さな呟きが耳に届いた。
頭のどこかで警報が鳴った瞬間、意識が吹っ飛んだ。
「・・・・・・・・・・・・・・・う・・・・・・・・・・・・・・・」
全身を襲う痛みに目を覚ます。
開いた目に眩しいほどの白。
降り続く雪と舞い上がった細かい雪が周囲を真っ白に染めていた。
頭を振って降り積もっている雪を払い落とし、身体を起こす。
それほど時間は経っていないようだった。
吹雪で霞む視界に映ったのは、何本もの竜巻と粉々に砕け散った氷柱の残骸。
あの天使が力を暴発させて、吹っ飛ばされたのだと理解する。
「・・・・・・・・・っ!!」
坂本は勢いよく起き上がり、その中心に走り出した。
──── このままじゃこの辺が吹っ飛んじまう
「そんなことさせてたまるかよ・・・・・・・・俺のモノなのに!!!」
そう叫んで、最も大きい竜巻の中に飛び込む。
物凄い速さで渦を巻く風が坂本の肌を切り裂いた。
「いってぇなぁ!!」
怒りに任せて適当に氷の壁を造った。
ガリガリと削れる音がして、造る傍からそれは粉々に砕けていく。
それでも多少の障壁になるから、造り続けてようやく長野の姿が見える位置まで辿り着いた。
「おい!!いい加減にしろよ!!!」
大声で怒鳴りながらその肩に手を伸ばす。
しかし触れる直前で俯く長野が頭を上げた。
そして坂本の姿を確認すると、さらに表情を歪ませた。
「・・・・・・・・!!!」
瞬間風の勢いが強くなる。
「・・・・っう!!」
吹き飛ばされそうになる身体を、何とかバランスをとって留める。
「おい!!おま・・・・・・・・・」
このまま
呼びかけようとして、頭の中に響いた声に坂本は動きを止めた。
このまま、この天使を、
「・・・・・・・・・・・・・うるさい・・・・・・・・・・・・・・・・・」
絶望に歪んだ表情のままで、
坂本は怒りの表情を浮かべて、頭を抱えて小さく呟く。
氷に閉ざしてしまえば
また私の、永遠に朽ちない、
「うるせぇよ!!!」
しかし突然、頭に響く声を振り払うように声を上げ、力を放出した。
放出された冷気は逆巻く風と相殺して、竜巻を消滅させる。
「俺は永遠なんていらねぇんだよ!!!俺の欲しい物は“お前”の趣味とは違うんだ!!口出しすんな!!」
そう叫び、まだ暴走を続ける長野の肩を掴み、顔を自分の方に向けた。
「約束、忘れんなよ」
そして長野の腹に力いっぱい拳を叩き込む。
「かはっ・・・・・・・・」
小さく息を吐く声がして、その身体が力なく崩れ落ちた。
周囲の竜巻が消えていくのを見て、坂本は息をつく。
そして気を失った長野をその場に置いて、帰っていった。
目を開くと真っ白な天井があった。
「・・・・・・・・・・・・・・・・あれ・・・・・・・・・・・・・・・・・?」
状況が理解できなくて小さく呟いた。
周囲を見回して、ようやくそこが自分の部屋だと気付く。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・」
身体を起こす。
ここで目を覚ます前の記憶が一瞬で戻ってきた。
「・・・・・・・・・・・・・あぁ・・・・・・・・・」
ため息のように吐き出して、顔を覆う。
同時に部屋の扉が開いた。
「起きたか」
その声に扉の方を見た。
出陣を命令した上司がそこにいた。
「突然暴走なんかして、何があった」
その声には怒りが含まれていて、長野は無意識に身体を強張らせる。
「・・・・・・・・・・・・解りません・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「何も覚えてないのか」
「・・・・・・・・・・・・・・・はい・・・・・・・・・・・・・・・・・」
長野の答えに、その男は小さく舌打ちをした。
「お前はしばらく出さない。その間に思い出しておけ」
そして足早に部屋から出て行く。
「・・・・・・・・・・出さない・・・・・・・・・・・・・」
長野は真っ青な顔で、男の言葉を反復した。
「・・・・・・・っ!!」
慌ててベッドから飛び降りて、部屋を飛び出す。
出て行ったばかりのはずの男の姿は無かった。
「お、起きたんだ」
呆然と立ち尽くしていた彼に、背後から声がかかる。
「!!」
「おう、何だよ」
勢いよく振り返った長野に、声の主が驚いた声を上げた。
「・・・・・・・・・山口君」
「もういいのか?」
「・・・・・・・・うん・・・・・・・・」
「ビックリしたぜ、雪の中でお前倒れてるから」
誰にやられたんだよ、とケラケラ笑いながら長野に近付く。
「お前でもやられるんだな」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「?どうした?」
反応のない様子に、山口は長野の顔を覗き込んだ。
「・・・・・・・・・・・・もうダメだ・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・何が」
「・・・・・・もう出なくて良いって・・・・・・・・・」
「良かったじゃねぇか」
「っ良くないよ!!」
山口の言葉を遮るように長野が声を上げた。
「・・・・っ俺は、俺は出なきゃ意味がないのに!!俺は人形じゃないけど、でも戦わなきゃ・・・!!!
戦わなきゃ俺は意味がないんだ!!だってあの約束だって、もうダメになっちゃったんだ!!
だから俺にはもうこれしか残ってなかったのに!!」
「長野?」
泣きそうな顔で叫ぶ長野に、山口はどうしていいのか判らず、手を伸ばしかけて止める。
「・・・・・・せっかく約束したのに・・・・・・・・・・・もう・・・・・・・・・・・」
だってあの姿を見られた
敵として会ってしまった
もう、あの関係を再現することなんて出来ない
「・・・・約束?」
「・・・・・・・っ」
山口の言葉に、長野は表情を強張らせた。
──── 知られちゃいけない
そう思い、山口を置いてその場から走って逃げた。
気付けば森に来ていた。
いつもと変わらない穏やかな空気を感じて、少し心が落ち着いた気がした。
さわさわと風が走る。
鼻に緑の匂いが届いて、長野はその場で足を止めた。
耳を澄ますと水の流れる音が届いた。
横手には小さなせせらぎが流れている。
それを覗き込み、水面に映った自分の顔を見て、小さくため息をついた。
「・・・・・・・・・・・何でここに来てるんだろ、俺・・・・・・・・・・・・・・・」
ポツリ呟く。
その時、突然足音がした。
慌てて頭を上げると、そこには黒い影。
「あ、いた」
「・・・・・っ!!!」
その姿を確認して、長野は言葉を失くす。
逃げようと急いで立ち上がり、背を向けた瞬間、腕を掴まれた。
「あ!待てよ!!」
「・・・・・・嫌だっ・・・・・・・・放せっ!!!」
長野が声を上げるとともに風が起こる。
「うおっ!!?」
風が肌を浅く切り、驚いて声を上げるものの、その手は離れない。
「放せよ!!」
「嫌だよ!ていうかお前自分から言い出しておいて約束破るのかよ!!」
「!?」
「お前が“明日”て言うから、俺毎日2人分作って待ってたんですけど!!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・え・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
坂本の言葉に、長野は動きを止めた。
「“え”じゃねーよ」
長野の反応を見て、坂本がため息をつく。
「・・・・・・・・何・・・・で・・・・・・・・・」
「お前が来るって言ったからだろ。今まで7曜分のサンドイッチを無駄にしたんだから、今日は食ってけ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・だって・・・・・・・・・・・・・・・・俺、アンタの仲間を・・・・・・・・・・・・」
「まぁな。仲間って言うか、正しくは部下だけど、確かにお前に壊滅させられたけども。
でもそれは“戦争”だから仕方ねーじゃん。それが仕事なんだからさ。
でもここは戦場じゃねーし、戦わなくてもいいかなーって・・・・・・・・・」
思ったんだけど、と、だんだんと声が小さくなっていく。
「・・・・・・・そんな理由・・・・・・・・・・?」
「やっぱ厳しいな。・・・・・・・・・・・でもそれ以上の理由は無いんだよなぁ・・・・・・・・」
困った様子で坂本が呟く。
「だってさ、死んだ奴は帰ってこねーじゃん、何しても。それよりは今生きてる奴を大事にしたいし、
本当はこうやって、戦うんじゃなくて、普通に交流出来たらなぁと思ってたんだよ・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・俺でも良いの?それ・・・・・・・・・・・・」
長野のその反応に、坂本は驚いて顔を見た。
「や、“俺でも”って言うか、お前がいいんだけど」
「何で?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
不思議そうに長野は首を傾げる。それを見て、坂本は黙って視線を逸らした。
──── まさか言えるわけない
『ありがとう!嬉しい!』
──── そんな風に笑いかけてくれたことが嬉しかったなんて
「・・・・・・・俺、お前以外の天使と会う機会無いから」
「あ、そっか」
坂本が適当に言った言葉に、長野は素直に頷いた。
「・・・・・名前、何ていうんだよ」
あっさりと納得されたことに少し拍子抜けしながら、坂本が掴んでいた手を離して尋ねる。
「・・・・・俺?」
「おう。俺は坂本っていうんだ」
「・・・・・長野」
「食べるだろ?作ってきたんだから」
「うん」
嬉しそうに笑って頷いた長野に、坂本も満足そうに微笑んだ。
ずっと昔から、誰にも知られないように、こっそりと、思い描いていたモノがある
それは、夢物語だって、そう思っていたけれど
本当は、ずっと前からすぐ傍にあったのかもしれない
でもまだこれは秘密のこと。
本当に小さな出会いは、きっと大きな変化をもたらすんだ。
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長くなった!!
当初はもう少し短いお話だったんですけど(汗)
ということで、以前企画で書いた『ランチタイム』の続編でございます。
そう簡単には仲良くならないんですよね、やっぱり(笑)
一悶着起こさせてみましたが、そのせいでかなり長く・・・・・。
それと、以前、気象の櫻井さんは坂本さんを尊敬している、という情報をいただいたので、
ちょっと使ってみました。
書いてはいないですが、彼の怪我は大丈夫です。ちゃんと避難しました。
いかがでしょうか、ぽぽらさま。
お気に召さなかったら書き直しますので、遠慮なくおっしゃってくださいね。
リクエスト、ありがとうございました!!
2007/10/18
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