※ちょっと前置き:煉獄王は力が強すぎて、人間や力の弱い天使・悪魔を理由無くイライラさせてしまうという設定があります。
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その言葉を口にしたときの表情が、今にも泣き出しそうに見えた。

だから、何か方法はないかと必死になって探して、ようやく見つけて。

それなのに。








晴れた日の昼下がり。
バイト帰りにふと思いついて、帰り道にあったケーキ屋でショートケーキを買って帰った。
家にいるのは城島だけのはずだからと、買ったのは2つ。
同居人が増えてからは賑やかになった分、2人でのんびりする時間がなくなった。
けれど今なら3人とも家にいないはずだからと、軽く鼻唄を歌いながらご機嫌に家路を急いだ。



「ただいまー」
少し大きめの声で呼び掛ける。
そのままリビングに向かうと、ソファに座っていた城島が、お帰りと微笑んだ。
「早かったなぁ」
「今日はそんなにすることなかったから。はい、お土産」
「ありがとぉ。じゃあコーヒー淹れよか」
「お願い」
そのまま山口がリビングを出ようとするのと同時に城島も立ち上がる。
パタパタとスリッパが立てる音を聞きながら、洗面所に向かった。

リビングに戻ってくると、コーヒーの香りが鼻に届いた。
買ってきた品物は律儀にもきれいに皿に盛り付けられている。
「カフェみたいやろ」
「確かに。ありがと」
ソファに座る。城島が2つのカップを手に、その横に座った。
「ブラックでえぇやろ?」
「分かってるね」
「伊達に主夫はやっとらんで。
 って、『しゅふ』の『ふ』は女偏やないからな」
「分かってますよ」
苦笑しながらカップを受けとる。
火傷しないように気を付けながら口を付けた。
「・・・・・・・・・・ん?何これ」
ふと、目についたのはソファに置かれた薄っぺらい冊子だった。
「・・・・・・・・・・求人誌?」
「うん」
取り上げてマジマジと見る。
その日付から、それが最新のものだと分かった。
「バイトしてみようかと思って」
「何で?・・・・・・・・・・あ・・・・・・・・・・もしかして金がヤバイ?
 そうだよね、松岡は別として、太一と長瀬が増えたから・・・・・・・・・・」
「いやいや、そっちは太一がきっちり管理してくれとるから大丈夫やって。ただ家におるのも飽きたし」
あかんかな、という城島の問いかけに、山口は切り崩したケーキの一欠片を飲み込んでから口を開いた。
「いや、別に反対はしないけど、大丈夫なの?その・・・・・・・・・・力の影響は」
「それがな!」
城島は嬉しそうに声を上げ、右側に座る山口に左耳を見せる。
そこには小さな石がキラキラと光を弾いていた。
「? ピアス?そういえば穴開いてたね。・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ってそれがどうしたの?」
「松岡からもろてんけど、何と、これを着けとると、影響出ぇへんねん」
「は?」
頭の上に疑問符を浮かべる山口に、城島は嬉しそうに話しだした。
「いやな、せっかくもらったから着けてみてん。そんとき、たまたま新聞の集金が来てな。
 いっつもあの人感じ悪いやんか、でもそんとき普通やったんよ」
「たまたまじゃないの?」
「いつも来る兄ちゃんやもん、たまたまはないやろ。
 やから町に出て色んな人に話しかけてみたんよ。そしたら何もなかったんよ!」
その様子を示すがごとく嬉しそうに心の音色も弾む。
よかったねと言おうとしたが、何故か言葉が出てこなかった。
意味が分からず微妙な表情を浮かべていると、城島が首を傾げた。
「・・・・・・・・・・・やめといた方がえぇかな?」
「何で訊くの?やりたいならやればいいじゃない」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
山口の言葉に城島は視線を外して、居心地悪そうにさ迷わせ、小さく呟いた。
「・・・・・・・・・・怒っとる?」
「は?」
「やめといた方がえぇならやらへんよ。家ん中誰もおらんくなるし、それが不味かったら・・・・・・・・・・」
慌てた口調が、取り繕っているように思えて少しずつイライラが沸き起こってくる。
「そんなこと言ってないでしょ。それに、別に怒ってなんか・・・・・・・・・・」
「怒っとるやんか」
山口の言葉を遮って城島が言った。
「怒っとるやん。そんな刺のある言い方せぇへんやん、普段!
 腹立つことあるなら言うてや!腹ん中でウダウダ思われとる方が嫌や!」
「だから怒ってないって言ってんだろ!」
ばぁんとテーブルが音を立てる。それに合わせて食器が悲鳴を上げた。
「怒ってんのはそっちじゃん!やりたきゃやればって言っただけだろ!
 良かったじゃない!そのピアスしてれば俺がいなくてもこっちで生きてけるんだろ!?」
「えっ」
「何だよ!あの時どれだけ必死に探したと思って・・・・・・・・・・!!」
そう言い捨てて、ソファを蹴っ飛ばしてリビングを出ていく。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
遠くの方から扉の閉まる激しい音が聞こえた。
城島はその一部始終を呆然と見送った。


玄関の扉を勢いよく閉めてから自分の台詞を思い出し、山口は耳を真っ赤に染めた。
「・・・・・・・・・・っ・・・・・・・・・・何言ってんの、俺・・・・・・・・・・!!」
さっきのやり取りを頭の中で再生する度に、あまりの恥ずかしさに胸の下の辺りがムズムズする。
けれども口論の原因になった何とも言えない不快感もなくならない。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
山口は居ても立ってもいられなくて、羽根を出して勢いよく飛び上がった。




* * * *




言われた言葉に思わず食って掛かると、違和感を感じる程の無表情で手を振り払われた。
「二度と行かない。それだけや」
城島の言い方が完全な拒絶を孕んでいて、同時に聞こえてきた音色に山口は動きを止める。
「今日は帰るな」
少し寂しそうにそう呟き、城島は飛び去った。
二人しか知らない人間界への扉の前で、山口は呆然と立ち尽くす。
「・・・・・・・・・・・何だよ、今の」
山口は意味が分からないと小さく呟いてしゃがみこんだ。


告げられた言葉は拒絶。
『これから人間界には行かない。住むなんてもっての他』と城島は言った。

聞こえてきたのは小さな悲鳴のような音色。
自分の口にした言葉を否定するような酷い音だった。


反するような言動をとるのはどうしてだろう。
何かがあって、というのは明白だ。
けれど、その『何か』が解らない。


「すごい変な顔になってるよ、山口君」
「んあ?」
テーブルを挟んで向かい側に座る長野の声に、山口は窓の外から視線を戻した。
「何かあったの?」
「・・・・・・・・・・別に」
「何かあったでしょ。山口君って昔から変わんないよね」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・え・・・・・・・・・・?」
「何かあったとき、いつもムスっとしながら外眺めてるんだから」
クスクス笑いながら長野が言う。
その言葉に山口は驚いた顔をして、居住まいを正した。
「長野、お前、ガキの頃のこと覚えて・・・・・・・・・・?」
そしてそう問いかけたが、山口の予想に反して長野は首を傾げた。
「? 何のこと?」
「あ・・・・・・・・・・いや、何でもない」
「なら良いけど」
不思議そうな表情を浮かべながらも長野は手元の紙の束に視線を戻す。
「それ何」
「植草さんからもらったメモだよ。これから坂本君に会うから」
その言葉に、ハッとしたように山口は長野を見た。
「坂本来んの?」
「うん」
「俺も行く」
「え?」
「話し始める前にちょっと時間くれ」
「え?ええ?」
鼻息荒く言い寄った山口に、長野は気圧されて曖昧に返事をしてしまったのだった。




バサバサと分厚い本が落下する。
腕で顔をガードしながら、山口は舌打をした。
「・・・・・あー!もう!!」
本が散らばった床に勢いよく腰を下ろす。
ふと取り上げた本にもびっしりと文字が書き込まれていて、山口は辟易してそれを放り投げた。



『煉獄王は負の感情を司ってるから、力の余波に触れた奴の感情の振れ幅を大きくしちゃうんだよ。
 俺たちはそれなりに力があるから何ともないけど、下位の奴はもろ影響を受けて感情的になる。
 相手が力のない人間だったら、余計にイライラとかを駆り立てられるのは当然だろ』



最後に城島と人間界に行った時、原因が良く分からないままイザコザが起きた。
二度と人間界には行かないと城島が言った理由はそれだろうということは分かっていたし、
長野との密談の時間に乱入し坂本を脅して手に入れた情報は、その時の疑問を解決できるものではあった。

しかし解決方法が全く思い浮かばない。

城島や坂本から聞いた、遠い昔に天使と悪魔が近しい存在だったという話から、
こっそりと書庫を探ってみると、確かにそういう記述のある書物がたくさん見つかった。
中には七王の性質について記されている本もいくつかあった。
しかしそれらの書物のどこにも、その性質を無くすためのヒントになることさえも書かれているものはない。
何らかの手段はないだろうかとあらゆる本を読んではみるが、それらしきものも見当たらない。
八方手詰まりの状態に、山口は完全に匙を投げてしまった。
「・・・・・・・・・・・・・・畜生・・・・・・・・・・・・・」
「誰、ですか?」
小さく悪態を吐いた時、本棚の向こうから声がした。
「・・・・・・・・・第1部隊大将、山口だ。探し物をしている。広げた本は片付けるよ」
本棚の向こうの声の主に山口は声をかける。
すると、パタパタと足音がして、本棚の影からひょっこりと少年が顔を出した。
「あ〜あ〜、すごいことになってますねぇ。片づけるの手伝います」
そう言いながら少年は近付いてくる。
山口の周りに散らばった本を拾い上げて、手の届く範囲で本棚に戻していく。
「悪いな」
「いいえ。ここの整理をすることがぼくの仕事です」
立ち上がって少年の横に並び、上の方に本を戻す。
まだそんなに歳を数えていないのだろう。少年は小柄で、山口の肩あたりまでしかなかった。
「見ない顔だなぁ。名前は?」
「和也です。苗字はありません」
「親無しか!ウチの隊以外に登用してるところがあるんだな。どこ?」
「4隊でお世話になっています」
少年の言葉に山口は思わず顔をしかめる。
家柄を最も重視する隊の名前が少年の口から出たことにも驚いた。
「・・・・・・・・・・・・・・大丈夫か?酷いことされてないか?」
「ふふ。あんまりいい話聞かないですもんねぇ、4隊って。でも、いつもここにいるので大丈夫です」
カラリと笑った少年に山口は面食らった。
自分の状況も、隊の雰囲気も噂も分かっていて、所属し続けているようだ。
「じゃあ何でそこにいるんだよ。うちに来るか?」
「うーん。・・・・・・善くしてくれてたヒトへの恩返しというか、そのヒトの敵討ちというか・・・・・・。まぁ、そんなところです。
 ところで、何をお探しでしたか?良かったら一緒に探しましょう」
ここの整理をしてるのでお力になれると思います、と言う少年に、山口は少し迷って、簡単に話をした。
「自分じゃなんともならないくらいの強い力を持ってる奴がいて、それを無くしたいんだけど、
 そういう方法とかが載ってる本ってないかな?方法とは言わなくてもヒントぐらいになればいいんだけど」
「・・・・・・・・・・・・・・・それは無くならないとダメなんですか?」
「は?」
「今あるものを無くすというのは難しいらしいんです。何でかっていうのはよく分かんないんですけどね。
 でも、抑えることは出来るそうです」
「抑える、ねぇ」
「ということでこの本どうぞ。参考になるような気がします」
そう言って少年は、本棚の下の方から取り出した本を差し出す。
「気がする、かよ」
少年の物怖じしない言動に、山口は笑いながらその本を受け取った。
「お前、肝座ってんなぁ!気に入ったよ。名前、覚えとく」
「ありがとうございます」
「これ見てみるわ。ありがとな」
そう言って山口は少年の髪をかき回す。
驚いた少年が小さく、わ、と声を上げていた。








手遊びしていたケースから煙草を一本取り出す。
それを口に咥えると、勝手に火が点いた。
残り少なくなった箱をテーブルの上に放り投げると、乾いた音がした。
火の点いた煙草を摘み紫煙を吐き出して、城島は溜息をつく。
最後に会った時の山口の様子を思い出していた。
「・・・・・・・・・・・・・・・・煙草、買いに行かんとなぁ・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
ポツリ呟いた言葉は誰もいない部屋に吸い込まれていく。


『何でだよ!』


「しゃーないやんか・・・・・・・・・・・」
誰に言うでもなくそう呟いた時、部屋の扉がノックされた。
「はい?」
『坂本だけど、いい?』
その言葉に慌てて煙草を揉み消して窓を開ける。
灰皿を片付けてから、坂本を迎え入れた。
「どうしたん?」
「ちょっとね。今暇?」
坂本は部屋には入ろうとせず、立ち止まったまま城島にそう尋ねる。
「まぁ、そんなにすることないけど・・・・・・・・・・」
「じゃあちょっとついてきてほしいんだけど。一応太一には許可取ったから」
「は?何で太一に許可取るん?」
「いっつも黙って出かけて怒られてんじゃん、茂君」
苦笑を浮かべる城島に、坂本も笑いながら言い返した。
城島はちょうど廊下にいた部下に声をかけて、すでに歩き始めていた坂本を追いかけた。



「よっ」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
坂本に連れてこられた森の中で待ち構えていたのは山口だった。
城島はその顔を見るなり、クルリと身体の向きを変え、帰ろうとする。
慌てて山口がその手を掴んだ。
「待ってよ!」
「僕は用ない!」
「話するくらい良いでしょ!」
そして山口がじっと見つめる。
城島は気不味そうに視線を逸らして抵抗をやめた。
「じゃあ俺帰るから」
呆れ返った様子で坂本がそう声をかけ、飛び去った。
坂本の姿を気配がなくなると同時に掴んでいた手を離す。
「・・・・・・・・・・・・何やねん」
「ちょっとお願いがあるんだ。ちょっと目瞑って」
「・・・・・・・・は・・・・・・・・・?」
「いいから」
意味の分からないお願いに城島は首を傾げるが、山口は説明もせず目を瞑ってとせがみ続ける。
「?」
仕方がないので目を瞑ると、山口が両手を掴んだのが分かった。
その次の瞬間。
バチッ
「痛っ!」
「いてっ!」
小さく弾けるような音がして、掴まれた手に痛みが走る。
咄嗟に手を振り払って目を開くと、一瞬眩暈がしたような気がした。
「っ・・・・・・・・・・・・何すんねん!」
声を上げる。山口も驚いたような顔をしていた。
「ゴメン!こんな風になるなんて思わなかったんだよ!」
「今何したん!」
「ちょっと待って・・・・・羽根出せる?」
怒る城島に、山口は全く関係ないことを訊く。
城島の顔に怒りが滲んだのが分かって、山口は顔を少しだけ青褪めさせる。
「ちがっ・・・・・馬鹿にしてるんじゃなくて!ちょっと確認したいことがあるんだよ!」
黙って帰ろうとした城島の手を掴んで引き止めた。
「・・・・・・・・・何を確認したいん?」
「羽根、出せる?」
「出せるに決まってるやろ」
「じゃあ出してみて」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・ガキじゃあるまいし・・・・・・・・・・」
小さい声でブチブチ文句を言いながら自分の背中を見て、動きを止めた。
「・・・・・・・・・・あれ?」
「どう?」
「え!?ええ!?・・・・・・・・・・お前ホンマに何したん!!?」
「ダメ!?」
「出ぇへん!!」
「よし!!」
「何が『よし』やねんボケェ!!!!」
城島は目を怒らせて山口の頭を叩く。
それにもめげず山口は城島の手を握り締めて喜んだ。
「ちっげぇよ!成功したんだよ!!」
「何が!!」
「力の封印!」
その言葉に城島は呆然とする。
「は?」
「坂本に聞いたんだ。こないだ人間界で揉め事起こしちゃったでしょ?
 あれさ、原因が良く判らなくってさ、だってシゲも相手も何もしてなかったじゃない。
 何か原因があるんじゃないかと思って坂本問い詰めたんだよ」
「・・・・・・・・・・・・・・」
「で、アナタが力強すぎて影響があったんだろうという結論が出た」
「・・・・・・・・・・それで封印・・・・・・・・・?」
「そう。羽根って力の結晶じゃん。それが出せないってことは力を抑えられてるってことでしょ?
 ってことは力が弱いヒトへの影響ってやつがなくなるじゃん」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「そしたらまた人間界行けるでしょ?あっちでも暮らせるじゃん」
そう言って山口が笑うと、城島はそっと俯いた。




* * * *




「山口君」
足元から声がして下を見ると、庭に出た太一が屋根に座る山口を見上げていた。
バサリと羽根の音がして、太一は屋根の上に飛び上がる。
真っ黒な羽根が数枚、宙に舞った。
「何だよ」
「ウザイから何とかしてよ」
「何を」
「リーダーとケンカしたんでしょ?部屋から出てこないし、松岡と長瀬がウザイ」
太一は立ったまま山口を見下ろして、不貞腐れたような口調で端的にそう言った。
「・・・・・・・・・・・・ケンカしてねーし」
「ふぅん」
太一はそう唸って、そのまま傾きかけた夕日を見る。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・何だよ」
「別に」
「・・・・・・・・・分かったよ・・・・・・・・・・」
何も言わない太一に耐えかねて山口は腰を上げる。
そして屋根の上から飛び降りて、羽根を出しながら落下速度を落として着地した。
山口が家の中に入っていくのを見て、太一はようやく腰を下ろす。
「めんどくさいよねー」
そうポツリと呟いて、ポケットから煙草を取り出した。





「シゲ」
ノックとともに呼びかけるが、返事はなかった。
「シゲ、いるの?」
もう一度声をかけるがやはり返事はない。
ドアノブを掴んでそっと回すと、予想外に鍵はかかっていなかった。
「あれ・・・・・・・・・・」
そのまま静かに扉を開ける。
ゆっくり顔を覗かせると、ベッドの上に座る城島と目が合った。
「あ・・・・・・・・・・達也・・・・・・・・・・」
イヤホンをして音楽を聞いていたのか、耳から外しながら驚いたように城島が声を上げる。
「あー・・・・・・・・・・・・入っていい?」
「ええよ。好きなとこに」
「うん」
山口は静かに戸を閉めて部屋の中に入り、事務机の椅子に腰を下ろした。
「・・・・・・・・・・・・さっきはゴメン」
「いやいや、僕こそゴメンな。ちょっと考えが足らんかった」
音楽プレイヤーに繋がれたイヤホンを片付けながら城島が笑った。
「力を封印する方法、見つけてくれたんはお前やんな。何か当たり前みたいになってて忘れとったわ」
「・・・・・・・・・・・そんなこと、いいよ・・・・・・・・・・・・」
「それに、僕はお前いなかったらこっちにおられへんよ。
 面白くないし、お前おらんかったらこっちにいる意味ないもん」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「あとな、あのピアスやけど、多分ピアス単体じゃ効果ないんよ」
「え?」
「今、まぁ、お互いに封印し合っとるから効果が弱まってて、影響が滲み出てもうとるやん。
 やから新聞屋の兄ちゃんとか機嫌悪くさせとるけど、でもやっぱ力は抑えられとんねんなぁ。
 多分松岡のピアスは、その滲み出てる分を中和してくれとるだけみたいなんよ」
「そうなの?」
「そうやねん。それに、こっちの金属合わんくてなぁ。長いこと着けとくと痒くなってまうんよ。
 せやから、やっぱお前居らんとあかんねん。帰るとか言わんとってや」
「帰らないよ!俺こそゴメン・・・・・・・ムキになっちゃって・・・・・・・・」
謝りながら、それ以上言葉が出てこなくなる。
ヤキモチを妬いて当り散らすなんてガキみたいなことをして、と恥ずかしさが沸き起こってきた。
と同時に城島の言ってくれた言葉が嬉しくて堪らなかった。
二つの感情が相まって、結果的に苦笑となって表れる。
それを見た城島も嬉しそうに笑った。















「ねぇ!もう何なのアレ!!心配したのに!!」
文句をタラタラこぼしながら松岡が台所で夕飯の準備をしていた。
カウンターにもたれてその様子を眺めながら、太一は小さく溜息をつく。
「太一く〜ん」
「何だよ」
横に座る長瀬が、背後のリビングを眺めながら情けない声を出した。
「ぐっさんいいなぁ〜」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・お前いくつだよ」
「え?えーっと・・・・・」
「言わなくていいっつーの」
太一を振り返った長瀬の額にデコピンを食らわせ、今度は目の前で煮える鍋を見る。
「いい加減にしてほしいよ」
そう呟きながら、絶対に振り返るもんかと決心した。
きっとリビングでは、誰も入り込めない二人の世界が展開されているに違いないのだから。





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できました〜!
「一つ屋根の下」リセッタでほのぼのorシリアスというリクエストをいただきましたので、
シリアス寄りの話にさせていただきました。
流れは決まっていたのになかなか進まないという難産なお話でしたが、
ちょいちょい決まっていた設定を出すことができたので良かったです。

このシリーズでのリセッタ話は、オチが同じような流れになっちゃって困ります。
分氏にもかなり迷惑をかけてしまっていて、本当に申し訳ないですね(笑)
シゲさんがバイトをやるかやらないか、どんなお仕事かはご想像にお任せします。
あと、ぐさまは周辺をウロウロしてから屋根の上に戻ってきているのです。
そのエピソードを入れるタイミングを逃してしまったので、ここで。


ではでは、大変お待たせいたしました!!
いかがでしょうか、ユウさま。
お気に召しませんでしたら書き直しますので、遠慮なくおっしゃってくださいね。
改めて、リクエストありがとうございました!!



2009/12/31




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