あいたい。
そんな事をよく思う。
別に生き別れの兄弟が居るのではなくて。
知り合いが居るわけでもなくて。
具体的な誰かは判らないけれど、そう思う。
たぶん原因は色の違う羽根。
悪魔のはずなのに右翼が白い。天使の筈なのに右翼が黒い。
理由なんて判らないから、きっと誰かに貰ったんだと思う。
その時、きっと羽根以外にも何かを一緒に貰ったんだ。
きっと、その部分が元の持ち主を求めてる。
だから逢いたいと思うんだ。
* * * *
基本的に、坂本は健を戦場に連れていかなかった。
健自身も戦う事は大嫌いだったから、それは都合が良かったと思っている。
だから、延々と続いているにも関わらず、健は戦場を目の当たりにした事はなかった。
坂本や井ノ原や、同僚が出ていって、帰ってくるのを見ていただけ。
無傷で戻ってくることもあれば、半分以上いなくなっている時もあった。
仲の良かった同僚が帰ってこなかった時、坂本に感情をぶつけた事もある。
坂本は大抵黙ってそれを受け入れた。
だから今、自分は歪まずにこの場に立てているのかもしれない。
健はそんな事もよく考えていた。
「明日天界に行く」
来るか、と問われ、健は一瞬目を見開いた。
「いきなり何で天界?死ににいくつもり?俺ヤだよ」
「ちげぇよ。ちょっと話し合い。停戦協定のための」
「・・・・・・それ、ホント?」
「ホント。実はしばらく前からある天使と話し合ってたんだ」
声を小さくして坂本は説明した。
「・・・・・・井ノ原君連れてけばいいじゃん」
「お前の方が、見栄えって言うと変だけど、良い気がするんだよな」
「何それ」
曖昧な坂本の答えに、健は眉を寄せる。
「それに、昔行きたいとか言ってなかったか?」
「・・・・・・」
覚えてたんだ、と健は内心驚いた。
坂本の部下になってすぐの頃、そんな事を言った覚えがある。
『戦争なんて早く終わってくれないかな。そうじゃないと天界に行けない』
あの時、確か坂本は何の反応も示さなかった。
だから、呆れられたのだろうと健は二度と口にはしなかったのだが。
「どうする?まぁ、好き勝手歩き回ったら危ないだろうから、自由行動は無しだけど」
嫌なら構わないと続けようとした坂本の言葉を遮って、健は頷いた。
「行きたい」
だってあいたい誰かがいるかもしれない。
「そうか。なら明日。ちゃんと正装しろよ」
そう笑って、坂本は自室に引っ込んだ。
それからしばらく、健は少し気分が高ぶって何も手に付かなかった。
* * * *
気が付けば同僚と呼べる天使がいなかった。
たまたま出会った山口の口添えで軍に入り、言い渡された配属は第7部隊。
赤い死神と揶揄される天使の下だった。
部下と言っても、普段の長野はぼんやりしていることが多いため、気に止められることもない。
戦闘中は敵味方関係なく攻撃をするため、むしろ自分の身を守っていなければならない。
同僚が転属願いを出し、次々といなくなっていくが、最近では補充さえなくなった。
そうして残ったのが剛だけだった。
「・・・・・・・・・・名前、何だっけ?」
割り当てられていた部屋の中で、本来なら長野が処理するはずの書類を整理していると、不意に声がかけられた。
「・・・・・・・・・・あ・・・・・・・・・・え?」
振り返った先にいたのは長野。普段は自分のことを目にも留めてくれない上司だった。
「君、ずっといてくれてるよね?」
「は、はい」
「・・・・・・・・・・ごめんね。俺、普段もぼんやりしちゃってるから周り見てないし、物覚え悪いから・・・・・・・・・・」
突然の言葉に剛は目を丸くした。
「い、いえ!そんな・・・・・・・・・・謝らないでください!自分はここにいさせていただけるだけで幸せですから!」
「・・・・・・・・・・」
そして今度は長野が目を丸くした。
「・・・・・・・・・・どうされました?」
もしかしてこの間の怪我が、と心配して近寄ってきた剛に長野は顔を背けた。
「ううん、何でもないよ。大丈夫」
「・・・・・・・・・・なら良かった・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・まだ俺の下にいてくれるつもりなら、名前、教えて。部下の名前も知らないなんて笑い者だからさ」
そう苦笑を浮かべた。
あぁ、このヒトは噂を知ってるんだ。
剛は少しだけ寂しくなった。
「剛です。森田剛」
「・・・・・・・・・・ごう・・・・・・・・・・。うん、分かった」
そして長野は微笑んだ。
初めて見た笑顔に剛は言葉を失う。
「じゃあ剛。いきなりなんだけど、明日、地界から悪魔が来るんだ」
「えっ!?」
「ただし、戦いに来る訳じゃない。相手は丸腰で、2人で来る。
一応上には話はしたんだけど、ちょっと揉めてて・・・・。今回は俺ともう一人だけでやることになったんだ。
でも停戦についての話し合いだから何とか形にしたい。手伝ってくれる?」
上層部には全く興味がないと思っていたから、剛は長野の口から話された内容に目を丸くした。
「・・・・・・・・・・戦争が終わるんですか・・・・・・・・・・?」
「分かんない。でも少しでも動かなきゃ、現状が変化する可能性さえ無いんだって」
誰かにそう言われたのだろうか。何となく、剛はそう思った。
「・・・・・・・・・・・・やっと終わるんですね・・・・・・・・・・」
そして、深く意味を考える前に、喜びの声が口をついて出ていた。
「・・・・・・っあ!・・・・・・・こ、こんなことを言うのは不謹慎でした!!申し訳ありません!!」
言ってしまった後に意味を理解して、慌てて言い繕う。
天界の殆どがこの戦争を『聖戦』と考えていたから、もしかしたら異端者として追放されるかもしれなかった。
「そんな事ないよ、剛。俺だって、もう戦いたくないなって思うんだ。だから、さ・・・・・・」
長野は言葉を濁しながらソファに腰掛けた。
「・・・・・・・・・・・・悪魔と仲良くなったんだ。そのヒトから今回の話を持ちかけられたんだよ。
それはさすがに言えなかったけどね。でも、・・・・・・・・・・・何ていうか・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「?」
「・・・・・・・・・・・・笑わない?」
「え・・・・・・・・・・あ・・・・・・・・・笑わないです」
普段会話を交わすことの無い存在との会話な上、想像と違う対応に、剛は動揺しながら何とか切り返す。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・天使より、信用できると思った」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「剛は知ってるよね、俺が人形って、死神って言われてるのは。・・・・・・・・・・・・自分でも、そう思うんだ・・・・・・・・・・。
でもね、あのヒトは『それがどうしたんだ』って。俺が天使だろうが、敵同士だろうが、関係ないって。
俺と、関わりを持ちたいって言ってくれた。・・・・・・・・・・・・・・・だから、それを信じたいなって・・・・・・・・・・・・・」
少しだけ嬉しそうな表情で、呟いた。
剛は、長野がいつもの無表情以外の正の感情を表していることに驚いていた。
いつも苦しそうな顔をしていたのに、笑えるようになったんだと、嬉しく思う。
反面、悔しいと思った。
自分はまだ、笑えないのに。
剛はずっと、それを自分の『欠陥』だと思っている。
他の天使を見て、自分を比べて、自分は感情の起伏が乏しい。
親がいなかったからとか、スラム出だからとか、いろいろ考えてみはしたが、結局は一つの結論に辿り着く。
羽根が半分黒いから、天使として不完全だから、あわなきゃいけない誰かに出逢えていないから。
だから笑えない。
だから、長野の存在が、多少でも救いになっていたのは事実だった。
笑えない、自分の意思で行動が出来ない、自分より『不完全』な存在がいる。
それに救われていたのは、目を背けたくはあったけど、否定できない事実だった。
「是非、手伝わせてください」
剛は即座にそう言っていた。
「戦争を終わらせる一端を担えるなら、自分は幸せです」
「・・・・・・・・・・ホントに?」
「はい」
「ありがとう!剛!」
そう言って握ってきた長野の手を、剛も握り返した。
『少しでも動かなきゃ、現状が変化する可能性さえ無い』なら、行動すれば変化があるかもしれないんだろう?
もしかしたら、笑えるようになるかもしれない。
そして。
あいたい誰かに逢えるかもしれない。
内心、そんな事を期待していた。
* * * *
「準備は良いか?」
上着の襟を正しながら坂本が訊いた。
「できるだけ俺から離れんなよ。あっちじゃ俺達の方が分が悪い」
「解ってるよ」
「ま、いざという時は俺置いて逃げろよ。戦わなくて良いから」
その言葉に、健はむっとした表情を浮かべる。
「何で逃げなきゃいけないの?坂本君置いて逃げるなんてヤだよ」
「俺は、実力あるクセに昇格嫌って、命令受けても絶対に戦いに行かなかったお前を気に入ってんの。
今更主義を変えるんじゃねぇよ」
健の鼻先を人差し指をさして、坂本はそう言う。
「あぁ、お前、襟が折れてんじゃねぇか」
そして苦笑を浮かべながら健の襟を直した。
「お前は戦わなくていいんだよ。そのために俺んとこに呼んだんだから」
直し終えて自分より幾分か低い健の頭に手を置く。
「さ、行くか」
「うん」
部屋から出ていく背中を追いながら、健は少し乱れた髪を直した。
坂本の部下達が列を作って敬礼しつつ2人を送り出した。
「ねぇ、これって公式訪問になるの?」
「一応上の許可はもらってるよ」
後ろを歩く健が坂本に問いかける。
天界との境界が少しずつ近くなってきた所だった。
「上?」
「眞王」
「・・・・・・・・・・・・・・うっそぉ!!!?」
健が上げた甲高い声に、坂本は耳を押さえる。
「えー!?あのヒトが!?本当に!?」
「本当に。正直馬鹿にされると思ってたんだけどな。取り巻きの態度に反してあのヒトはゴーサインをくれたよ」
そう言って坂本は肩を竦めた。
「ホントあのヒト、茂君そっくりなだけあって、腹ん中では何考えてるか解んねぇや」
「俺、茂君は好きだけどあのヒトは嫌い」
むすっとした表情を浮かべる健に、ため息をつく坂本。
「それを言うなよ。言わないようにしてんだから。ま、いつか絶対引きずり降ろしてやるけど。・・・・・・・お、見えたぞ」
物騒なことを言いながら坂本は境界を見遣る。
その言葉に、健は同じ方向に視線を向ける。
そこには数人の白い影。
「・・・・・・・白・・・・・・・」
「行こう」
少しだけ足を早めた坂本を見上げると、さっきまでの軽い表情ではなかった。
──── 本当に天界に来たんだ
そんな実感が今更ジワジワ湧いてくる。
──── あえるかな
そんな気持ちが鼓動を早くした。
「お待たせして申し訳ない」
「いえ、こちらこそ来ていただいて感謝します」
坂本の呼びかけに、一番前に立っていた天使が笑顔で答える。
「大変恐縮ですが、ボディチェックを行っても?」
「どうぞ。見た通り武器なんて持ってきてはいませんがね」
皮肉混じりに坂本が答えると、その天使は苦笑を浮かべた。
そして背後に指示を出す。
後ろに控えていた数人がやってきて、坂本と健を確認した。
それが終わると、彼らは天使に耳打ちする。
「ありがとう。下がっていいよ。お疲れさま」
報告を受けて、天使は笑顔で彼らにそう言った。
彼らは一瞬驚いたような表情を浮かべ、しかし頭を下げて去っていった。
「手間取らせて申し訳ありません。ではご案内します」
そう言って彼は歩き出す。
それについていく坂本を追いかけて、健は少し走った。
* * * *
お茶の葉を目の前に、剛は途方に暮れていた。
「・・・・・・・・・・・・どうすんだ、これ・・・・・・・・・・・・」
『とりあえずお茶を準備しておいてほしいんだ』
未だかつて一度もお茶なんて淹れたことはない。
箱を手に取りじっと見つめるが、無地の表面に説明が出てくるわけもなく、ため息を一つついて箱を置いた。
その時、扉をノックする音がした。
「はい」
振り返って返事をすると同時に扉が開く。
長野かと思い泣きつこうとした瞬間、入ってきたのは別人だった。
「・・・・・・・・・・・・うっ・・・・・・・・・・・・植草隊長!?」
「あれ、長野かと思ったら森田か」
ニコニコ笑いながら、そのまま部屋の中に入ってくる。
「え・・・・・・・・・・・・なん・・・・・・・・・・・・」
「長野の手伝いにな。あいつが今までこういう仕事したことないのは、お前が一番解ってるだろう?」
固まっている剛に、植草は苦笑を投げかけた。
「何してたんだ?」
「・・・・・・・・・・・・あ・・・・・・・・・・・・え・・・・・・・・・・・・お、お茶を・・・・・・・・・・・・」
「淹れるのか?」
「・・・・・・・・・・・・どうすればいいのか判んなくて・・・・・・・・・・・・」
「はは、そんな難しいもんじゃないよ」
そう言って剛の肩を叩き、茶葉の入った箱を持ち上げる。
突然な上司の上司の登場に固まっていた剛をほったらかしたまま、植草はてきぱきと準備を進めていく。
「薬缶ないか?」
「え!?あっと、ここに!!」
突然の問いかけに、剛は勢いよく動き始める。
それを見て、植草が笑った。
「何だ。緊張してるのか?お前も長野の代わりに定例会に出てるんだから、見慣れてるだろ?」
「・・・・・・・・・・・そうなんですが、やっぱり・・・・・・・・・・・・・」
「緊張するな。獲って食ったりしないし、他の奴みたいにお前が下だからって雑に扱ったりするつもりはない」
その言葉に、剛は口をあんぐり開けて植草を見る。
「長野だってお前と同じだ。それでもこうやって仕事が出来てる。生まれなんて関係ないってことさ」
「・・・・・・・・隊長が俺と同じ?・・・・・・・・・・・・スラム出ってことですか・・・・・・・・・・?」
「お、薬缶貸してくれ」
剛の手の薬缶に目をやり、そう言った。
「沸かしてくれないか?お前確か火だろ?」
はぐらかされた、とそう思った。
しかし言われたとおり火を起こして、植草が呼び出した水で満たされた薬缶を火にかけた。
「長野と上手くやれてるか?」
「・・・・・・・・あ、はい・・・・・・・・・・・・」
「そうか」
「・・・・・・・・嘘です・・・・・・・・・昨日初めて話しました」
「どうだった?」
「・・・・・・・・普通でした」
「そうか」
何か言われるかと思い、ドキドキしながら植草の様子を見ると、嬉しそうに笑っていた。
「さぁ、湯が沸いたことだし、隣の部屋に悪魔の気配もするし、そろそろ行くか」
準備してあったティーポットにお湯を注ぎ、少ししてカップに注ぐ。
「持っていってもらってもいいか?」
「はい」
手渡されたお盆を持って、植草の後についていった。
* * * *
「中では俺から離れないでください。何があるか判らないので」
「分かりました」
2人のやりとりを耳では聞いていたが、やはり珍しくてキョロキョロと周りを見渡してしまう。
「三宅」
呼ばれ慣れない呼びかけに、一瞬動きを止める。
同時に腕を引かれた。
「話聞いてた?離れんなよ」
「分かってるよっ」
2人のやりとりを見ていた天使が小さく笑った。
「・・・・・・・すみません」
恥ずかしく思いながら健が頭を下げる。
天使はいえいえと首を振った。
「仲が良いんですね。羨ましい」
そして小さい声でそう呟く。
その台詞に健は驚いた。
天使というものは自分達を正義だと思ってる、高慢な存在だと思っていたのに。
「どうぞ」
辿り着いた部屋の前、扉を開けながら天使が入室を促す。
どうも、と言いながら入っていく坂本に続いて健も足を踏み入れた。
質素なレイアウトだった。
それほど大きくもない部屋の真ん中に、テーブルを挟んで向かい合わせにソファが2つ。
客間かな、と健は思った。
「どうぞかけてください」
勧められるまま健はソファに腰掛ける。
「・・・・・・・お願いできますか?」
天使は扉を閉めるとともに坂本に向き直った。
その問いかけに、坂本は両手を胸の前で合わせ、小さく何かを呟く。
キン
耳の奥で金属音が小さく響いた。
何で結界を張るんだろう。
健がそう思った瞬間、理由が明らかになった。
「・・・・・・・・・・・・・・ふ・・・・・・・・・・・・・・っあはははは!!」
坂本がソファに勢いよく座りながら大声を上げて笑い出す。
「!!!?」
「ちょっと笑わないでよっ!俺だって立場があるの!」
「でもお前の態度超ウケる!!」
ゲラゲラ笑う坂本に、天使が膨れっ面になった。
「もー!!坂本君なんて嫌いだ!!」
「そんな怒んなよ」
目に浮かんだ涙を拭いながら、坂本は天使を宥める。
「・・・・・・・えー・・・・・・・」
どう反応していいのか分からず固まる健に、坂本が声をかけた。
「あぁ、前言わなかったっけ?こいつが例の天使」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・もしかして、欲しいって言ってた白いモノって・・・・・・・」
「正解」
鼻唄でも歌い出しそうな勢いで坂本は健に向かって笑顔を見せた。
「欲しいって何?」
「いや、こっちの話。さて、誰が来るの?」
「俺の知り合いで、いつも気にかけてくれてるヒト。ちゃんと七大天使だよ」
「ありがとう、長野」
坂本がそう言うと、長野は嬉しそうな顔をした。
「ああ、そうだ。こいつは俺の部下の三宅健。健、こっちは長野だ」
「初めまして、三宅君。長野です」
「三宅です」
差し出された手を、健は握り返した。
温かい。
そしてそんな事を思う。
天使も悪魔も、羽根の色以外何も変わらないじゃないか。
健が笑うと、長野も微笑み返した。
その時、部屋の扉がノックされる。
長野が返事をすると、一瞬、入口の所だけ結界が消えたのが健には分かった。
瞬間、身体がざわめいた。
長野が扉を開けてノックの相手を部屋に招きいれる。
そして、開いた扉の向こうに、健の視線は釘付けになった。
剛はカップの中身をこぼさないように気を付けながら、植草が開けたままにしておいてくれる扉をくぐった。
入った瞬間、身体を変な感覚が走り抜けたような気がしたが、気のせいだと思い込む。
「剛、大丈夫?」
長野が声をかけてきたが、大丈夫ですとだけ答えた。
「植草さん、こちらがお話した・・・・・・・・・・」
「初めまして。凍土王の坂本と言います」
「こちらこそ初めまして。七大天使に名を置いている植草だ」
聞きなれない声を交えて、そんなやり取りが聞こえた。
剛はその声の主を見ようと頭を上げて、そのままお盆を落とした。
ガシャン
陶器のカップが勢いよく床に叩きつけられて、割れた音がした。
「剛!!?」
その場に立ったまま固まっている剛に、長野が走り寄る。
「どうしたの!!?大丈夫!!?」
「・・・・・・・・・・・解んね・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・剛?何で泣いてるの・・・・・?」
長野の言葉に、剛は初めて自分が泣いていることに気付いた。
「・・・・・・・・健?」
長野の背後で坂本が声を上げる。
剛の目の前に、見知らない、同じくらいの背丈の青年が立っていた。
「・・・・・・三宅君・・・・・・・・?」
振り返った長野が、すぐ後ろに立っていた健の様子に眉を寄せた。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・アンタ、誰だよ」
涙を拭うこともせず、剛は健に問いかける。
でも、答えを聞かなくても、何となく解っていた。
「・・・・・・・・・・・・・・・逢いたかった・・・・・・・・・・・・・・」
そう言って、抱きついてきた健を、剛は抱きしめた。
ざわざわと走り抜けていた妙な感覚が消える。
代わりに今まで感じられなかった充足感が広がった。
健も同じような感覚を味わっていた。
部屋に入ってきた剛を見た瞬間、このヒトだと思った。
何が何だか解らなかったけれど、胸の中がいっぱいで、自然と涙が出てきた。
いてもたってもいられなくて、立ち上がる。
誰なのか知らないのに、懐かしくて、愛おしい。
「・・・・・・・・・・・俺も、アンタに会いたかったのかもしれない・・・・・・・・・・・・・・」
思い余って抱きしめた腕は拒絶されるかもと思ったが、それに反して抱きしめ返された。
そして囁かれた言葉に、健は目を閉じた。
「とりあえず、2人にさせてあげないか」
そんな声が聞こえて、健の目の前に知らない男が立った。
「俺たちは隣の部屋に移ろう。2人で納得できるまで話し合いなさい」
そして、健と剛はソファに座らされ、3人は部屋を出た。
「・・・・・・・・・・・・・・・あんな健初めて見たんだけど・・・・・・・・・・・」
坂本がショックを受けたような顔で呟いた。
「あの少年の、羽根の色を訊いてもいいか?」
その呟きに、植草がそう問いかける。
「あ?羽根の色?黒だけど、それが何か?」
「・・・・・・・・・・森田の羽根は片翼が黒いんだ」
「・・・・・・・・・・・・・」
「今は別の奴が羽根を白に染めているんだがな。知らなかったか、長野」
驚いた顔をしている長野に向かって、植草が苦笑を向けた。
「知りませんでした・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・健の羽根も片方が白だ。俺が染めてる」
「やはりな」
「片割れって事か?」
「多分」
「・・・・・・・・・・・ふぅん・・・・・・・・」
坂本が、面白くなさそうに唸った。
「え?どういうこと?」
意味が理解できずにいた長野が、坂本に向かって首を傾げる。
「あいつらは2人で1つってことだよ」
* * * *
「っていう出会いだったの!ちょー運命的じゃない!?」
「ハイハイ」
「もー!ちゃんと聞いてよ、ぐっさん!!」
「・・・・・・・・聞いてんだろ・・・・・・・・・・」
絡んでくる三宅に少しうんざりしながら、山口は助けを求めるように坂本を見た。
しかし坂本は肩を竦めるだけで、何にもしない。
「でね、剛ったらさぁ!!」
耳元で響く甲高い声に、何となく慣れてきてしまった自分が悲しいなと思う。
坂本が城島との用を済ませるまで相手役を引き受けたことを、山口は心の底から後悔したのだった。
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キリがなくなりそうだったので、ぶった切りました。
本編では未だに三宅さんしか出てきていないですが、剛健コンビの出会いです。
何と言うか、劇的な出会いだったんだよって事なんですが、上手く書けませんでした・・・・・・。
本当は森田さん視点と三宅さん視点を分ける予定だったんですが、
短すぎる話が2つになってしまうのは微妙かなと思って1つにしたら余計微妙に(汗)
森田さんと三宅さんは、生まれる時に何かがあって、半々になっちゃったのです。
森田さんは右翼が白羽、左翼が黒羽。三宅さんは右翼が黒羽、左翼が白羽。
どちらかといえば森田さんは天使寄り、三宅さんは悪魔寄り。
そんな感じです。
何だか微妙な気がしますが、前々から書きたかった話なので、満足です。
お待たせしました!!
いかがでしょうか、慧香さま。
お気に召さなかったら書き直しますので、遠慮なくおっしゃってくださいね。
改めて、リクエストありがとうございました!!
2007/12/23
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