「ちょっと“こんびに”って所行ってくるわー」
そう言って、財布も携帯も持たず単身出かけた城島が、行方を晦ました。
a i m a t t h e m o o n
「どういうこと?」
青筋を浮かべながら太一が目の前に座る黒服の少年2人に問いかける。
その顔は笑っているものの、引き攣っていて、目は笑っていない。
「・・・・今キャプテンが詳しいことを調べてるんですけど、誘拐されたみたい、です」
2人の内、茶髪の方が言い辛そうに伝える。
「誰もついていかなかったわけ?」
「・・・・・・・俺が隠れてついていってたんですけど・・・・・・・・・・」
もう1人の、緩くウェーブのかかった黒髪の少年が口を開く。
「ついていってたんですけど?」
「・・・・・・・・・・・まかれました・・・・・・・・・・・・・」
がっくり肩を落とす少年。同時に吊りあがる太一の眉。
「まかれた!?特殊訓練受けてて、あんな鈍臭い人にまかれたの!?何してんの!!」
「「・・・・・・・・・・すみません・・・・・・・・・・・・・」」
太一の怒声に、2人が力なく項垂れた。
この2人、情報収集や根回し、後始末等、隠密行動を行うサポートチーム“嵐”の一員である。
昔で言う、忍者のような立場にあり、一族の中でも特殊訓練を受けた先鋭しかなれないのだが。
「・・・・・でっ・・・・でも!!」
方が手を上げて反論する。
「“でも”何だよ、相葉」
「言い訳ですけど!!あの人動きが予測不能なんですよ!!突然裏道に入っていったりとか、
通り過ぎた店に戻っていってバーゲンに参加しちゃったりとか!!追いかけきれないんです!!」
「そうなんです!!突然気配が消えるんですよ!!」
相葉の反論に次いで、もう1人、松本が声を上げた。
「まぁ・・・・、気配がないのはわかるけど・・・・・・・・・・」
半泣き状態で意見する2人に太一は同情を浮かべた。
自分達もそれでいろいろ迷惑をかけられていたのだから。
「・・・・仕方ない。それは追求しないことにしとくよ。で、誘拐と判断した理由は?」
「こんなんが来てたんです」
突然上から声。天井板が外されて、人が顔を覗かせた。
「おわぁ!!!?」
「「キャプテン!」」
太一が驚いて、相葉と松本が嬉しげに声を上げる。
「・・・・・・・・・ちゃんと入ってこいよ、大野・・・・・・・・・」
「ちょっとめんどくさくて・・・・」
天井から胸から上だけでぶら下がる大野に、太一がため息をついた。
「何が来てたの?」
「これです」
スタっと床に降り立って、太一に折り畳んだ紙を手渡す。
「手紙?」
「脅迫状かなぁって」
相葉と松本に倣って、松本の横にびしっと正座する大野。
「『当主は預かった。返して欲しくば今夜×××の廃倉庫に、鬼伏神一人で来い』?
わー。何かベタな脅迫状だなぁ。っていうか何で山口君?」
「さぁ?死にたいんじゃないんですか?」
「山口君が行ったら徹底的につぶされてお終いだと思うんですけど」
「しかも当主絡みですし。骨も残らないかも」
言いたい放題言う3人の言葉を否定できない太一は、微妙な表情でそれを聞いていた。
「茂君が誘拐されたってどういうこと!!?」
スパン、と襖を開けて入ってきたのは松岡。
「あ、松兄ぃだ」
「あれ?どしたの、お前ら」
3人が松岡に寄っていく。
「さすが、松岡。情報早いね」
「だって斜向かいのポチが連れてかれたって」
少年たちの相手をしながら太一の問いかけに応える。
「・・・・・・・・・・・・斜向かいのポチ、ね」
「いま犬って思ったでしょ」
「思ってないって。てか、それで情報さらった方が早い?」
「ううん。周囲1キロ圏内で訊いてきたけど、それ以外情報無し」
松岡は肩を竦めた。
「今翔君とニノが探してるんで、もうすぐ戻るんじゃないかなぁ」
大野がそう言った瞬間、庭に誰かが着地した。
「太一君!!」
3人と同じように黒い服を着て、左耳にピアスをつけた少年が走って縁側に上る。
「噂をすれば」
「お、櫻井」
「あ、松岡君!その前に。太一君、いました!」
松岡の呼びかけに嬉しそうに返事をしたものの、先に太一の元に走る。
「どこに?」
「指示通り×××の廃倉庫でした。今ニノが潜入してます。あ、あと、ニノが変なこと言ってたんですけど」
ふと思い出したかのように櫻井が言った。
「何?」
「クサいって、あの倉庫の中。でも俺は全然臭わなかったんです。埃っぽいだけで」
首を傾げる櫻井に、相葉が後ろから飛びつく。
「翔君ゆーれーとか視えないからわかんなかったんじゃない?」
「そっか。ニノは狐だから鼻が利くしね」
なるほど、と手を叩く櫻井。
「クサい、ねぇ・・・・・・・どんな臭いか言ってなかった?」
「う〜ん・・・・・・・・何かが腐ったような、ドブのような臭いって言ってた気がします。胸焼けしてくるって」
その答えに、太一は眉を寄せる。
「心当たりあるの?太一君」
「あるような無いような。もし当たってたら俺行きたくないなぁ・・・・・・・・・・・」
小さくため息をついた。
「そういえば山口君と長瀬は?」
「兄ぃと長瀬なら長野君とご飯食べに行ったよ」
「・・・・・・・・・・長野君と?」
「うん。長野君と」
松岡の答えに、さらにため息をつく太一。
「・・・・・じゃあ、大野と相葉は二宮に合流。とりあえず茂君に命の危機が迫るまではそのまま待機。
櫻井と松潤は山口君と長瀬を呼んできて。茂君のことと食事ができるかもってこと言ったらすぐ来るから」
「「「「了解」」」」
返事と同時に姿が消えた。
「さて、松岡君」
2人だけ残された部屋。
太一が改まって松岡に向き直る。
「・・・・・・・・・・・な・・・・何・・・・・・・?」
「俺の勘が正しければ、これから鬼相手にドンパチしなきゃならないんだけども」
「うげっ」
「しかも、大量の人喰いと、ね」
引き攣った笑みを浮かべて、太一がそう言った。
目を開くと見知らぬ天井。
というよりは、全く知らない場所。
自宅の天井はこんなに高くないし、鉄筋でもないし。
そんなことを思いながら身体を起こす。
埃っぽい。
薄暗くて判らないが、大きな箱型の何かが詰まれているのが見えた。
そして、気持ち悪くなるほどの腐敗臭。
「・・・・・・・・・・・きっついわ、これ・・・・・・・・・・・」
眉を寄せ、辺りに立ちこめるドス黒い霞から目を背ける。
そして自分を中心にして四方に張られている札に気づいた。
「・・・・・・・・・・・・封呪か」
最高の待遇やな、と一人ごちる。
4枚の札で囲われている以上、大それた術は使えない。
内部の者の力を封印する結界だからだ。
「あまてらし くにてらしつつ ひなたなす 日光る神の すべらおほがみ」
少し考え込んで、小さく口の中で祝詞を唱える。
城島の周囲の霞が薄くなり、しばらくして消えた。
「効いたってことは、大した術士が張ったんやないっちゅーことか」
素人かな、と再度辺りを見回す。
とりあえず縄で縛られている以上動けないことは確かだ。
「ま、しばらくしたら助けに来てくれるやろ」
そう言って小さく息をついて、城島は目を閉じた。
その姿を天井裏から見ている影が1つ。
髪を短く刈り上げた少年が鼻をつまみながら城島の頭上にある梁の上に座っていた。
(あの結界解いて浄化してもらおうかな)
あまりの臭いに彼はそう考え始めていた。
(せめてキャプテンがいてくれたら楽なのになぁ)
ぼんやりしているチームリーダーの顔を思い出しながら、彼はため息をついた。
その時、すとんと真横に何かが落ちてくる。
「?」
「ニノ発見」
「相葉ちゃん」
「オイラもいるよー」
笑顔で落ちてきた相葉の横に、もう1人降りてきたのは大野。
「・・・・・っキャプテンっ!!」
「ニノ〜」
再会に感動し合い、抱きしめ合う2人。
「俺もー!」
その様子をウズウズしながら見ていた相葉が抱きつこうとすると、二宮が腕を突き出して拒否する。
「邪魔しないでくださいよ、相葉さん」
「何でだよ!!」
「こら。ケンカすんなよ。バレるでしょ」
小さくため息をついて2人を止める大野。
「失敗したらまた太一君に怒られるよ」
その言葉に2人は完全に黙った。
太一からの指示を二宮に伝えた後、大野が周囲を見回して呟いた。
「それにしてもクサいね。何したんだろ」
「これ鼻曲がる〜」
「キャプテン何とかしてください。もう限界」
二宮が眉間にシワを寄せる。
「えー?九字結界?それとも祝詞?」
「三種大祓(さんじゅのおおはらい)で十分です」
首を傾げる大野に二宮は慣れた様子で指示を出した。
「とふかみえみため かんごんしんそんりこんたけん はらいたまひきよめいたまう」
「あ。臭い消えた」
相葉のその言葉と同時に二宮が大きく深呼吸する。
「死ぬかと思った」
「またまた大げさな〜」
「大げさじゃないよ!こんなところで禁呪なんてするからこんな臭いが溜まるんだよ」
笑う相葉に二宮は声を上げた。
もちろん3人とも基本は小声だけれども。
「「禁呪?」」
大野と相葉が同時に首を傾げる。
「禁忌とされてる呪法です。っていうかキャプテンは習ったでしょ」
「そうだっけ?」
「あー!もう!だから上のジジィどもにバカにされるんですよ!」
あは、と笑って首を傾げる大野に二宮が怒る。
「相葉ちゃ〜ん、怒られちゃったー」
「智君かわいそー」
ひしと抱き合う2人を二宮がジト目で睨んだ。
「とりあえずここでヤバいことやったってのは解る」
「うんうん。禍々しい感じはするよね」
「これは翔君には判んないよなぁ」
「あの人は霊的不感性ですからね」
霊能力皆無なのに先鋭部隊に名を置いている同僚を3人はしみじみと、幸運な男だと思った。
「しぃっ」
突然相葉が人差し指を口元に寄せる。
大野と二ノ宮が口を噤むと同時に金属の軋む音がした。
さっきまで閉じられていた扉が開いて、人が入ってくる。
うたた寝していた城島も目を開いた。
「お目覚めですか、城島の当主殿」
先頭に立って入ってきたスーツ姿の男がニヤニヤと笑みを浮かべてそう言った。
「目的は何や?」
「俺達が何者かは知らなくていいのか?」
唐突な城島の台詞に、男は拍子抜けしたように訊く。
「ありきたりなパターンやからな。お前らが何もんかも興味ないし」
面白くなさそうな、そもそもビビってもいない城島の態度に、男は顔を引き攣らせた。
「・・・・・あんたが使役する鬼伏神を渡してもらおう」
「・・・・・・・・そういうわけか」
「なに?」
口角を僅かに挙げる城島に、男は怪訝な表情を浮かべる。
「お前ら、ここで禁呪やったな?しかも意図的に人を鬼にする最も忌まわしいとされとるやつを、何度も」
男の表情が歪んだ。
「確かに、鬼伏神は人喰い鬼から生まれるって伝承されとるし、禁呪で作られた鬼は100%人喰いになるもんな。
それでもこうやって僕を誘拐して鬼伏神を手に入れようとするってことは、どうせ失敗したんやろ?」
城島の挑発するような口調に、男は怒りを滲ませた。
「そこまで解ってるなら話は早い。どうやって鬼伏神と使役の契約を交わしたのか教えろ」
カツカツと男は城島に近寄り、その胸倉を掴んで脅す。
(茂君が!!)
天井で見ていた相葉が小さく声を上げた。
(ダメ。今行ったらどうなるか判らないから)
それを大野が制す。
(多分大丈夫。契約方法を言うまでは殺されないから)
険しい顔で大野は言った。その時、二宮がふと何かに反応した。
(来たよ)
二宮がそう呟いた瞬間、男と城島の横手にあった壁が轟音を立てて吹っ飛んだ。
「くぉらぁ!!!シゲに何してんだテメーらぁ!!!!」
壁に開いた大穴から現れたのは山口(と、その後ろに長瀬と呼びに行った桜井、松本)。
ズンズンと地響きを立てそうな勢いで歩み寄ってくるその姿に、一瞬呆然としていた男は、
慌てて城島を盾に取り、そのこめかみに拳銃を当てた。
「それ以上近付いたら撃つぞ!!」
男の声に、山口は足を止めた。
「・・・・・・・・・・テメー・・・・・・・・・・」
腹の底に響くような声に、大野たちは顔を青褪めさせた。
「・・・・・・味方でよかった」
「心からそう思うよ」
「翔君も松潤もがんばったね」
山口の開けた穴付近で硬直している2人の姿を見遣り、3人は心から今の状態に感謝した。
と、その時。
山口が壊した壁とは反対側にあった扉が勢いよく開いて、太一と松岡が入ってきた。
「茂君!!」
男はそれを見て、一瞬硬直した。
「っ何でっ・・・・!!」
「残念やったね。生憎僕の周りには過保護が多くてなぁ。
鬼伏神1人で来いっちゅー脅迫文出したのかもしれんけど、そんなん聞くやつはおらんて」
あはは、と笑う城島に、太一が声を張り上げる。
「何言ってんのバカ当主!!緊張感無さ過ぎるのもいい加減にしろ!!!!」
青筋立てて怒る太一に、城島はシュンとして呟いた。
「・・・・・そんな怒らんでも・・・・・・」
よく解らない力関係に、男は唖然としながらも、拳銃の安全装置を解除する。
「貴様ら動くなよ!!動いたらどうなるか、解ってるだろうな!!!」
「うわっ。ベタな台詞っ。さすが三流はこういうところでも三流だね」
太一の呟きに、男は頬を引き攣らせた。
「ちょお、あんま挑発すんなや。僕が死んでもええんかい」
「大丈夫。保険金の受取人は俺になってるから」
「なんでやねん!!!」
笑顔で親指を立てた太一に城島は顔を青褪めさせて叫んだ。
「・・・・・・っうだうだ時間延ばししてんじゃねぇ!!!とっとと言え!!契約方法を!!!」
緊張感の無いやり取りにキレた男が、銃口をごりっと押し付ける。
さすがに太一も黙り、張りつめた空気が流れる。
「・・・・・・・本当に鬼伏神と契約したいんか?」
城島が、男を見上げて言った。
「シゲ!?何言って・・・・」
「達也は黙っとれ」
山口は眉を寄せて黙る。城島の剣幕に飲まれた男は、それでも是と言った。
「・・・・・・・鬼伏神手に入れて何がしたいん?」
「力を手に入れたいだけだ!!力を望んで何が悪い!!!」
「・・・・・・・・・・・・別に悪いとは言わんけどな」
俯き気味にそう呟いた城島は、男に言った。
「おい、縄解け。使役契約の方法教えたるわ」
その言葉に、男は素直に縄を解く。しかし拳銃は城島に向けたままではあったが。
「シゲ!!何言ってんだ!!」
「うるさい山口。お前はそこに立っとれ。僕の最後の命令ぐらい聞けや」
慌てる山口をばっさり切り捨て、城島は上を見る。
「大野、相葉、二宮。そこにおるんやろ!降りてきて太一のとこに行け。そこにおったら死ぬで」
真顔の台詞に3人は慌ててそこを離れた。
唖然としている太一の後ろに着地して、松岡の傍に寄る。
「太一、松岡。下がれ」
低い声に太一と松岡は黙って数歩後ずさった。
「手ぇ出すなよ」
周囲を指差し、警告して、城島は山口に向き直って、聞き取れない言葉を口にし始めた。
「本気か!!?茂!!っそれ以上唱えるなぁ!!!俺は嫌だ!!!」
命令を無視し、焦った様子で城島の方に走り出す。
「 」
山口がそこに辿り着く前。城島が、人間には聞き取れないその言葉を口にした瞬間。
パキン。
軽い音を立てて山口の左耳の金環が全て砕けた。
「!!!」
同時に山口が動きを止める。
そして頭を抱えて膝を着いた。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・あ、ぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああ!」
声が上がるとともに周囲に重苦しい空気が漂い始めた。
「・・・・!」
松岡の後ろにいた二宮が体を強張らせる。
「・・・・ニノっ」
「ヤバイよ、これ・・・・・・ここにいちゃダメだ・・・・・・・」
震える身体を押さえつけるが、意味がない。冷や汗を流し動けずにいる大野と相葉と、身体を寄せ合う。
「・・・太一君っ・・・・これ、ヤバイよ・・・・!!」
「解ってる!!でも逃げるのもヤバくね?」
そもそもその場から動くことができなかった。
見る見るうちに姿が変わっていく。
耳は尖り、髪は金に染まる。目の上、生え際辺りに2本の角が生えていた。
『・・・・・・・・・・・・・・・・どういうつもりだぁ・・・・・・・・・城島の若造が・・・・・・・・・・・』
山口とは異なる声。腹の底に響くようなドスの効いた声で“それ”は言った。
金眼に縦に深く裂けた瞳孔。
上げられた表情は怒りを滲ませて、城島を睨む。
「お前と新たに契約したいっちゅー奴がおる。やから譲ってやろうかと思てな」
『ほざくな、ガキめ。・・・・・・・・・・・お前が言うならそれなりの奴なんだろうな・・・・・・・・?』
「さぁな」
気のない返事をする城島に、“それ”は笑った。
『・・・・・・・いいだろう・・・・・・・・・誰だ・・・・・・契約を望む者は・・・・・・・・・』
ゆっくりと起き上がった“それ”は、周囲を見渡す。
「おい」
城島は、それまで黙っていた男を呼んだ。
「アレを力で押さえつけろ。そうすれば契約成立や」
その言葉に、男は言葉を失った。
「・・・・そん・・・・な・・・・・・・」
『お前か』
“それ”が男に気付いた。
瞬間、男は吹っ飛んでいた。
「大野、相葉、二宮」
城島は立ち尽くしていた太一らの元に行った。
目の前では戦いというよりも、一方的な攻撃が行われていて、男は逃げるのでいっぱいになっている。
「・・・・茂く・・・・」
「しっかりせぇ。アレの敵意はお前らには向いとらんのやから」
そう言って、動けずにいる5人の肩を叩く。
「茂君、アレ・・・・・・何?」
太一が顔面蒼白で訊いた。
「アレが鬼伏神や。荒御魂やねん、本性はな。戦いと食に対する本能だけの荒神なんよ。
・・・・・・・・・・・・・・・・・あの男は絶対に契約できん。無理や。もっかい僕が契約し直さなあかん」
城島は太一から呪符を5枚もらうと、そこに血文字でいくつか書き加えた。
そして、同じく固まっている長瀬と桜井、松本の方を向いて、柏手を打った。
「ちょっと来い!!」
我に返った3人を自分のもとに呼び戻した。
「今からアレと使役契約を結ぶ。僕1人じゃ絶対に無理や。やから手伝ってもらいたい。
松岡と桜井を除いた嵐の4人はこれを指示する所に貼ってきて欲しい。で、めくれんようにしっかり押さえとけ。
長瀬はここで待機。今アレに近付いたら抵抗する間もなく喰われるで。
桜井、長瀬を守っといてくれ。こん中ではお前にしかできん。で、太一は補助を頼む」
城島が指示を終え、呪符を渡すと同時に5人は倉庫内に散っていく。
「茂君」
長瀬が不安げに呼んだ。
「ぐっさん、元に戻れますか?」
「大丈夫。僕は負けん」
長瀬の頭をポンポンと軽く叩いて、城島は、一歩踏み出した。
「雷電招来!!急々如律令!!」
その掛け声とともに雷光が鬼伏神を襲った。
『邪魔をするか!!!』
「選手交代や!!僕の見込み違いやったみたいやからな!!」
『ほざけ!!候補者はまだ死んでないだろう!!』
「僕に免じて特例認めたって!!ノウマク・サマンダ・ボダナン・ガララヤン・ソワカ!!!!」
『昔と変わらんな!!!もう二度とその手には乗らんぞ!!!!』
城島の真言に応えて赤い光が鬼伏神に向かっていく。
鬼伏神は今まで追っていた男から完全に興味をなくし、城島に狙いを定めた。
『そんな攻撃で押さえつけられると思っているのか!!!』
閃光を軽く避け、鋭い爪を城島に向ける。
それが城島の鼻先に届く直前。
「ノウマク・サンマンダ・バサラダンセンダ・マカラシャダ・ソワタヤ・ウンタラタ・カンマン!!!」
太一の声が響くとともに鬼伏神の動きが止まった。
同時に城島は真言を唱え始めていた。
『な!!!?火界咒か!!』
「センダマカロシャダ・ケン・ギャキ・ギャキ・サラバビギナン・ウン・タラタ・カン・マン!!!」
セーマンの形に貼られた呪符が光を放ち、鬼伏神を襲い、耐え切れず地に膝を着く。
「跪け!!!!」
気迫のこもったその言葉と同時に鬼伏神は地に伏した。
そして城島は先に唱えたものとは少し異なる、しかし言葉として聞き取れない呪を口にする。
呪が進むにつれてその身体が光に包まれていく。
その光が消えた後、そこには山口が倒れていた。
小さく唸って、頭を振りながら起き上がる。
城島は、傍に寄って、しゃがみこんだ。
「おはよぉ、達也」
「・・・・シゲ・・・・・?・・・・俺・・・・・・」
「ごめんなぁ」
泣きそうな顔をした城島が、ぽつり、言った。
それに山口は、申し訳なさそうに答えた。
「・・・・・・・・・腹減った・・・・・・・・」
その答えに、城島は差し出していた手で山口の頭をはたいた。
「さて、訊きたいことがあるんやけど」
全てが終わって、倉庫に残されていたガラクタの山で半死半生状態になっていた男に城島が言った。
今度は逆に城島がその胸倉を掴んで持ち上げる。
「あの禁呪、誰に教わった?あれはなぁ、うちの先祖がこの世から完全に抹消した呪法で、城島の当主しか知らんはずや!!」
顔を近付け、低音で脅す城島。
「・・・・しらな・・・・・・」
「知らん奴から教わったっちゅーんか!!?」
「ホントに知らない!!アレをやれば力が得られると言われてやっただけだ!!鬼伏神のことも、そいつに言われて・・・・・・」
必死な様子で弁解する。本当に知らないようだった。
その時。
「シゲ」
山口が城島を引っ張った。
「何・・・・・・・」
『 私が教えたんだよ 』
声と同時に男の背後の闇から巨大な手が伸びてきた。
その手は男を掴んで闇に引きずり込んでいく。
「ああああ!!!助けて!!!助け・・・・・・・・・・」
男の声が響き、一瞬静かになった後、真っ暗な向こうから悲鳴が聞こえて、消えた。
『 久方ぶりだ、城島の若当主 』
闇の中に赤い光が2つ。鋭い眼が光る。
「・・・・羅刹・・・・」
『 そう怖い顔をするな。約束は守っているだろう? 』
城島が眉を寄せ、人喰いの王の名を呟くと、それは低く笑った。
『 今の人間は身の程知らずにも力を欲していた。だから利用して喰った。それだけだ 』
人間と見たら全てを喰っているわけではない。
そう言った主は、面白そうにその目を細める。
「達也のことはどういうことや」
『 退屈だったんだよ。長いこと生きていると暇で仕方ない。・・・・特に損失も無かったんだから構わないだろう? 』
「巻き込まれるこっちは迷惑じゃ」
城島が睨むと、低い笑い声が響いた。
『 それは失礼。それにしてもいい退屈しのぎになったよ。鬼伏神も、面白いものを見せてもらった 』
「ふざけんなテメー。喰うぞ」
『 クク・・・・・ご立腹のようだな。お詫びといっては何だが、いい物を置いていってやろう。せいぜい楽しんでくれ 』
クツクツ笑って、その気配が消える。
『 また会おう 』
それだけ言い残して、完全に羅刹は消えた。
「もう二度とゴメンや!!」
羅刹が消えた方に目を向けて悪態をつく城島。
その背中を太一が引っ張った。
「何や」
「茂君、アレ」
「ん?」
太一が指差した方には、喰われた男が連れていた部下・・・・・だったものがいた。
その姿は人の数倍の大きさ。いわゆる、鬼。その数二十数体。
「・・・・・・・・・アレってもちろん人喰いですよね?」
「・・・・・せやね」
大野の問いに、城島は顔を引き攣らせた。
「・・・・シゲ」
「・・・・・・何?」
硬直する城島たちをよそに、山口が呼んだ。
「・・・俺、腹減っちまったんだけど、いいかなー?」
えへ、と笑う山口に、城島はにっこり微笑んだ。
「残さず食べてきてええで?」
その言葉を受けて、山口はハイテンションで鬼の集団に突っ込んでいく。
「・・・・・・訓練てことで、行っといで」
山口の姿を苦笑交じりに見送った城島が、嵐の5人にそう言った。
えー、と文句を言いながらも騒ぎながら鬼に向かっていく5人。
続いて松岡と長瀬も走っていく。
それを見送った城島は、後ろにふらついた。
「うわ!茂君!!」
慌てて太一が受け止める。
「ちょっと無理しすぎたわー」
「大丈夫だよ、茂君。保険金は俺に落ちるようになってるからね」
心配そうな顔で泣き真似をする太一がそう言った。
「だから何でそうなっとんねん!!!」
城島の叫びを飲みこむように爆音が鳴り響く。
そんなこんなで夜は更けていった。
シリアスなんだかギャグなんだかわからなくなってきた陰陽師シリーズです。
リクエストくださった駒軌さんが日記で山風が〜とおっしゃっていたので出してみました。
とはいうものの、私が大野さん好きなので大野さんが出張ってます。
が、いざ書いてみると、口調がわかりませんでした(苦笑)撃沈です。
ちなみに彼らは、ここの世界では学生です。学生陰陽師(もどき)ー。
狐のニノさんの飼い主は大野さんだったりするという設定があったりします。
そもそもこの話は設定はできてるものの、出す機会がなかなかないという微妙な話なので、
主人公であるはずのトキさん方も設定があんまり出てきてないですね。
リクエストオンリーで話を進めてるから仕方ないですけど。
いかがでしょうか、駒軌さま。
お気に召さなかったら書き直しますので、遠慮なくおっしゃってくださいね。
リクエスト、ありがとうございました!!
2006/08/16