ベキっ
「あ」
持っていた剣が折れた。
さくっと音とともに途中で折れた剣の刃先が砂地に突き刺さる。
「・・・・・・・・・・・・・うっそーん・・・・・・・・・・・・・・・・・」
短くなって手元に残っていた剣を眺めて、俺は思わず呟いた。
Don't Forget Me.
そんなこんなで俺の大事なタウが壊れてしまったのは今日の昼の事。
タウっていうのは変わった武器。
普通は刺青らしいんだけど、俺がシゲルくんからもらったタウはさらにちょっと変わってる。
俺がもらったのは、何かよく分からないけど金属でできた小さなペンダント。
それは俺の思う通りの武器になる。剣とか、槍とか、銃とか。
でも、俺は武器にすることはできても、その属性とかいうのに合わせた技が使えない。
タイチくん曰く、魔法とは違った技?が使えるらしいんだけど、それをどうすれば使えるのか解らない。
何度もシゲルくんにもぐっさんにもタイチくんにもマボにも訊いたんだけど、さっぱり。
でもね、それを使ってカレー(カッコいいってこと)に戦ってるぐっさんを見ると、やっぱり羨ましいんだよね。
だから、コッソリ練習してたのに。
「・・・・・・・壊れちゃった・・・・・・・・・・」
ペンダント型に戻した俺のタウはしっかり半分に割れていた。
「・・・・・・・・・・・・・・そういえばこないだ、マボのも壊れてたかも・・・・・・・・・・・・」
いつだったか忘れたけど、マボも自分のタウを壊したことがあった。
マボのタウはブレスレット型。これもシゲルくんが造ったんだって。
でも俺のと違って槍にしかならない。本当はマボの方がセイジョーらしい。
これは造った人のシゲルくんも、タイチくんも首を傾げてたけど、俺にはよく解んない。
「・・・・・・シゲルくんに直してもら・・・・・・・」
そう思ってだん吉の方に足を踏み出した時、あることを思い出した。
──────── タウを入れんのって、メッチャ痛いんだぜ
それは、マボが修理してもらった時のぐっさんの言葉。
──────── 願わくば俺はもう嫌だね
その後響いたマボの絶叫が頭の中に響く。
「〜〜〜〜〜〜!!!!」
背中に何か冷たいものが走りぬけた気がして、俺は背中を掻き毟った。
クスクス
その時、後ろから笑い声が聞こえた。
「!!?」
いつもの習慣で、戦闘体勢をとって振り返る。
振り返った先、そこらへんにゴロゴロ転がっている岩の中でも、少し小さめの岩に腰掛けている奴がいた。
茶色いサラサラヘアーで、キレイな顔の、多分男。
歳は俺と同じくらいの奴が、ニコニコ微笑みながら俺を見ていた。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・誰?」
その様子に、俺は思わずそう呟いた。
「あんなぁ、こういう緊張感のないところは君の魅力やと思うけどな、でもこういう場合に発揮したらあかんとも思うねん」
そいつはいきなり真顔になって、シゲルくんと同じようなしゃべり方でそう言った。
「シゲルくん!!?」
「なんでやねん!!」
俺の叫びにそいつはツッコミを入れた。
「じゃあ誰?敵?」
「いや、だから俺が敵だったとして、そう訊かれて敵って答える奴がどこにおんねん」
「わかんないじゃん」
「・・・・・・・・・・・・・・もーええわ」
何でか疲れた様子で、立ち上がっていたそいつはもう一度腰掛けた。
「誰?」
「俺、シゲルくんちゃうで。コウイチいうねん」
「コーイチ?」
「そう、コウイチ」
「コーイチは何してたの」
「んー。キミを観察しとってん」
「何で?」
「さっきから何や百面相しとったやんか、キミ。やからおもろいなーと思って」
「じゃあコーイチは何者?」
「俺?俺はこれ」
そしてコーイチは自分の目を指した。
「あ!赤目!?」
今まで気付かなかったけれど、コーイチの目は、この前見た赤目のヒトと同じ色をしていた。
「そやで。俺は赤目やねん。やからキミの敵ではないで」
「そっか」
「・・・・・・・・・・・・・。てか君は何しとったの?」
コーイチは一瞬微妙な表情を浮かべたけれど、そう訊いてきた。
「ちょっと・・・・・・・・・・・・・練習を・・・・・・・・・・・」
訊かれて思い出した。
タウを使いこなせるように、と練習してたのに、壊れてしまっては何にも出来ない。
「でもさっき壊れとらんかった?」
「・・・・・・・・・・・壊れた・・・・・・・・・・・・・・」
がっくりと肩を落とすと、コーイチが近付いてきた。
「ちょお見せて?もしかしたら応急処置ぐらいならできるかもしれん」
コーイチがそう言うので、俺は持ち手の部分と折れた剣先をコーイチに渡した。
「あらー。キレイに真っ二つになっとんなー」
あららー、と言いながらコーイチは割れたところを眺めている。
そして、次の瞬間。
「よ」
コーイチは折れた剣先で指を切った。
ぶしっと血が出る。
「ぎゃー!!何してんの!!!?」
「ええから、ええから」
俺の叫びを笑顔で受け流して、コーイチは両方の割れ口に血を塗りつける。
そして、そこを元の通りにくっつけて、ぎゅっと力を入れた。
「はい。とりあえず応急処置やけど、くっついたで」
「スゲー!!!」
コーイチから受け取ったそれは、割れていたなんて分からないくらいキレイにくっついていた。
「スッゲー!!!スッゲーよ!!何でこんなことできたの!!?」
「血には鉄分含まれとるからなぁ。それを媒介に俺の力送り込んでくっつけてん」
「スゲー!!よく解んねーけどスゲー!!」
コーイチは自慢気に説明してくれたけど、よく解らなかった。
でもすごい。
「ありがとう、コーイチ!」
「いやいや、かまへんでー」
俺の言葉にコーイチは嬉しそうに笑った。
「じゃあ、俺そろそろ行くな」
そして突然そう言い出す。
「え!?何で!!?」
「もーそろそろ時間やねん」
少し寂しそうにコーイチが笑う。
「最後に、いい事教えたるわ」
そう言って、コーイチは俺の手を取った。
「なぁ、ナガセ。俺にもお前にも名前があるように、どんなタウにも、名前があんねんで。
例えば、ヤマグチくんが持っとるのはエアトベーデンっちゅーし、
タイチくんのはハロイドラグーン、マツオカくんのはメトシュラングいうやろ?
名前は大事やで?名前を知らんかったら話しかけるにも大変や」
コーイチはスラスラとぐっさんたちのタウの名前を言い上げていく。
何でぐっさんのとか知ってるんだろう。
「新しい関係っちゅーのは、名前を聞くことから始めんねん。俺は知っとったからナガセの名前は訊かんかったけど」
「・・・・・・何で、知ってたの?」
「・・・・・・・・・・・・・そいつ、大事にしたってな」
コーイチはそう笑って、消えた。
「・・・・・・・・・・・・え・・・・・・・・・・・・・?」
俺は思わず手を見る。
さっきまでコーイチが握っていた手には、まだ感触が残っている。
「ナガセー!」
不意に後ろから名前を呼ばれた。
振り返るとシゲル君がこっちに小走りでやって来ていた。
「?どないしたん?変な顔して」
そしてシゲル君は俺の顔を見て首を傾げる。
「お?ナガセ、それどないしたん?何かおかしいで?」
ゴメンなと言いながら、シゲル君は俺の手から剣の形のままのタウを取り上げた。
「・・・・・・・・・・折れたん?」
「・・・・・・・・・・・う、ん・・・・・・・・・・・」
「どやってくっつけてん、これ。・・・・・・・・・・・血?」
裏返したり軽く叩いてみたりして調べながらシゲル君が呟く。
「コーイチが・・・・・・・・・」
「へ?」
「コーイチが直してくれたんだけど、消えちゃった!」
それを言うのが何となく悲しくて、俺はシゲル君に抱きついた。
「さっき会って、名前聞いて、折れちゃったタウ直してくれて、突然消えちゃったんです!」
「・・・・・・・・・・・ナガセ・・・・・・・?」
「ちゃんと俺の手を握ってたんです!温かかった!ちゃんと目の前にいて、俺、ちゃんと触って・・・・・」
「ナガセ」
シゲル君が俺の背中を軽く叩いていた。
「コーイチって、どんな奴やった?」
抱きついていた俺を離して、シゲル君は俺の顔を見て、そう訊いた。
「・・・・・茶髪で、肩ぐらいまでの髪で、シゲル君と同じしゃべり方で、目が赤かったです」
俺がコーイチのことを喋ると、シゲル君は黙って聞いていたけど、だんだん表情が曇っていく。
「・・・・・・・・・本当にコウイチって、名乗ったん?」
「・・・・・・・え・・・・・・・・はい・・・・・・・・」
「そか」
シゲル君が俺から手を離す。
「・・・・・・・・・シゲル君・・・・・・・・・?」
「・・・・・・多分やけどな・・・・・僕の弟やわ」
「・・・・・・・・・・・・・・・え・・・・・・・・・・・・・・・・?」
シゲル君は悲しそうに笑って、そう言った。
「僕の弟にコウイチっておってな。おかんが違って、おとんが一緒で。5年位かな、一緒に住んどった」
「・・・・・でも、消えて・・・・・・・・」
「もう生きとらんねん」
一瞬、言った意味が解らなかった。
「何年か前に戦争で死んだ。僕が看取ったから間違いない。コウイチは、死んどる」
「でも俺本当にコーイチとしゃべって、手も触ったんですよ!」
「・・・・・・・・・・これな」
俺の声にシゲル君は視線を下に向けて、俺のタウを返してくれた。
「創ったのは僕やけど、デザインしたのはコウイチやねん」
俺は思わず自分のタウを見た。
「勉強して、初めてあの子がデザインしたやつや。結局あの子が創ることはなかったけど・・・・・・・。
・・・・・・・・・・やから、もしかしたら心配して出てきたんかもしれんね」
シゲル君が笑う。
その笑顔が、すごく悲しそうに見えた。
「・・・・・・・・・・大事にしたって、って言われました・・・・・・」
「おん、大事にしたってな」
そして、ちゃんと直そうか、ともう一度タウに手をかける。
「こないだのマツオカん時みたいにする必要はないから」
少しビビッた俺に、シゲル君が苦笑い。
「しっかりくっついとるから、一遍刺青に戻して、取り出せばええねん」
「・・・・・・・痛くないですか?」
「痛くあらへんよ」
上着脱いでなー、とシゲル君が言うので、タウをシゲル君に渡して上半身裸になる。
「すぐ終わるから背中向けてやー」
「背中?・・・・・・・これ、どうやって創ったんですか?背中には自分で刺青入れれませんよ?」
「ヤマグチの背中に刺青彫って創ってん」
「・・・・・・・・・・・・・・」
アハハ、と笑いながらシゲル君は背中で何かしている。
だからぐっさんはもうヤダって言ってたのかな・・・・・・・。
そんな事を思っていると背中の方から青い光が見えた。
「見る?」
シゲル君がそう言うので頷くと、シゲル君は地面から鏡を創って見せてくれた。
「うわー・・・・・・・・・・・スッゲー・・・・・・・・・・・」
背中一面に紺色の模様が広がっている。
見たことのない、たてがみを持った猫みたいな動物・・・・だと思う。
「大昔におったライオンっちゅー生き物をモチーフにしたて言うとったなぁ」
「ライオン?」
「そう、百獣の王」
取り出すで、とシゲル君は鏡を壊して背中に手を当てる。
少しくすぐったい感じがした。
「・・・・・・・・俺、忘れないです」
「んー?」
「今の刺青も、シゲル君が今教えてくれたことも、コーイチのことも、絶対忘れません」
ずっとずっと、死ぬまで、絶対に覚えていようって、何となく、そう思った。
「・・・・・・・頼むわ」
シゲル君は、元のペンダントに戻ったタウを俺に手渡しながら笑った。
それは今までの形とは少し違っていた。
「ちゃんとお前のもんになった証拠」
「俺の・・・・」
何となく嬉しくて、それを握り締める。
『 俺の名前は ────────── 』
そしてふと聞こえた『声』。
「・・・・・・・・・俺の名前はナガセだよ」
だん吉のところに戻ろう、と先に歩き出していたシゲル君が、俺の声に振り返る。
「どした?」
「ううん。何でもないっす」
そして俺は茂君の元に走っていって、その背中に飛びつく。
シゲル君はよろめきながらも受け止めてくれた。
安心して、コーイチ。
ちゃんと関係は始まったよ。
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と、いうわけで強く儚い者たちの番外編でした。
久しぶりに書いたので、設定が頭の中から飛んでいました(汗/最終更新が2006年6月。現時点で半年以上前)
以前日記で近畿さんたちの呼び方を訊いたのはこれのためだったんですが、
書き終わってみれば1回しか呼んでないし、すぐにいなくなってしまいましたね(汗)
今回は王子だけだったんですが、ちゃんとどつよさんも設定ありますよ。
やっぱりベイベ口調は難しいですね・・・・・。
しかもこの話の中ではちょっとおバカな抜けてる設定なので余計に・・・・。
でも久々に書いたら楽しかったです。
大変お待たせしました!!
いかがでしょうか、ひよさま。
お気に召さなかったら書き直しますので、遠慮なくおっしゃってくださいね。
改めて、リクエストありがとうございました!!
2006/02/04
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