城島茂36歳独身。
職業・売れっ子小説家。
好きなもの・酒、煙草、美味いもの、等々。
嫌いなもの・高いところ、締め切り、妖怪化け物幽霊の類。
特技。
妖怪化け物幽霊の類に好かれること。
満月の夜のHaS
その日、昼過ぎにのそりと起きてきた城島は、新聞の今日の暦を見て衝撃を受けた。
月齢14。満月。
思わず仰け反り、座っていた椅子がガタンと音を立てる。
「?・・・・・・・あ、リーダー。おそよ。どしたの?」
その音に台所からニョキっと頭が伸びてきた。
「あ、いや、ま、松岡、何でもないで。おはよぉ」
少しドモリながら、それでも平静を装って笑顔で返す。
彼は城島宅の居候その1、松岡昌宏。
職業は某レストランのコック。
この家の台所関係は彼が管理している。
「?まぁいいや。何か食べる?俺らはお昼ご飯食べちゃったけど」
「あー。何か雑炊みたいなん食べたいなぁ」
城島のリクエストに松岡ははいよ、と返事して台所に引っ込んだ。
その後に、何か食べといてもらわないと今夜困るし、という呟きが聞こえたのを、城島は聞かなかったことにした。
「あー!リーダーおはよー!!」
再度新聞を確認しているところに背後から衝撃。
「うぉっ!?」
後ろから伸びてくる長い腕はそのまま肩の辺りを抱きしめた。振り返った先には彫りの深い整った顔。
「長瀬、おはよぉ」
苦笑いしながら、その笑顔に応える。
「おはようございます!」
えへへ、と笑いながら、そのままさらにぎゅうと抱きしめた。
城島宅居候その2。長瀬智也。
職業はモデル。
この家の癒し系的存在。
彼はそのままの状態で、鼻をすんすん言わせる。
「・・・・・・・・リーダー美味しそうな匂いがする・・・・・・・・」
その呟きに、城島は勢いよく長瀬を突き飛ばした。
「・・・・・僕は美味くないで?・・・・・・長瀬」
「・・・・・・・・・そうですかぁ?」
にこにこと笑顔を浮かべる2人の間に、何ともいえない緊張感が走る。
「何してんだ、お前」
呆れた声と共にバシンと良い音。
長瀬がキャンと声を上げて頭を押さえる。
「痛いよ!太一君!」
「お前がアホなことしてるからだろ」
アホじゃないもん、という長瀬の抗議を無視して、現れた小柄な影は城島に微笑みかけた。
「おはよう。リーダー」
「お・・・・・・・・・・・おは、よう。太一」
その笑顔に、城島はひきつった笑いを浮かべ、1歩下がった。
城島宅居候その3。国分太一。
出版社勤務。城島の担当でもある。
「・・・・・・・・・・何構えてんの?」
「や、別に」
引き続き、ひきつった笑顔を浮かべる城島に、太一が眉を寄せた。
「まぁ、いいや。そういえば今夜は楽しみだね。なんてったって満月だし」
そう言ってニヤリ笑う太一に城島は表情を強ばらせた。
ちょうどその時松岡がお椀片手に台所から現れる。
「何してんの?」
「・・・・・・・・・・・・いや、別に」
極力平静を装い、城島は席に戻る。
そして、松岡の用意してくれた遅い昼食を急いでかき込み、席を立った。
「ごちそうさま!」
イソイソとその場を立ち去ろうとする城島。
リビングから出ようとしたところで、入ってこようとした何かにぶつかった。
「おわっ!?」
「あ。おはよう、シゲ」
ガタいのいい身体に小麦色を通り越してこんがり焼けた肌。短髪を立たせた逞しい青年が、にっこりと微笑んだ。
城島宅居候その4。山口達也。
サーフィンショップ店員。
「あっ、おっ、おはよぉ、達也」
城島は目を泳がせながらも挨拶を返す。
「どうしたの?そんなに慌てて」
「何でもあらへんよ!」
「そう?ならいいけど」
「じゃあ僕は・・・・・・・・・・・・・・・」
早急に話を済ませて自室に戻ろうとした城島の腕を山口が掴んだ。
「!!?」
「今日の夜。楽しみだね」
にっこりと、アイドルスマイルを浮かべる。
「・・・・・・・・・・・・・僕は楽しみやない」
城島は視線を逸らす。
「何で?月に1度なんだから楽しもうよ」
山口は自分の方に引き寄せて、その耳元で囁く。
「・・・・・・・・・・・・・本当は今でもいいんだけどね」
城島の背中を冷たいものが走り抜けた。
「・・・・・・・・・・・だぁー!!!!近寄んな化け物がぁ!!!!」
そう絶叫しながら山口を突き飛ばす。
「いい加減にさらせや、この化け物共!!僕は食いもんやないわ!!」
青筋を浮かべながら喚く城島に、居候4人は顔を見合わせてにっこり笑った。
「今更何言ってんの」
「そんな美味しそうな匂いさせて、涎垂らすなって言う方が無理ですよ」
「何度も言ってるけど、俺たちから見るとすごく魅力的なんだぜ?」
「そうそう。今すぐにでもかぶりつきたいぐらい」
そう言って、獲物を狙うような視線を向ける4人。
もとい。
化け物4匹。
彼ら4人は見た目は人間だが、本性は歴とした妖魔である。
山口、太一は、系統が異なるものの、何百年と生きてきた、純粋な吸血鬼。
松岡は人の生気を吸い取るサキュバス。こちらも数百年はこの世に存在している。
そして長瀬。好きな食べ物は人間という、正真正銘の狼男。
彼らは、妖魔からしてみるととても魅力的で、
食欲をそそる匂いをさせている城島に魅了されて集まった、種族の異なる、いわゆる化け物なのである。
満月の夜、月が夜空で輝いている間、彼らの力は普段にも増して強くなる。
そして、本能的な衝動も強くなる。
対して城島も妖を引きつける力が強くなる反面、それを払う力が弱くなる。
つまり、妖魔からしてみれば襲いやすく、城島にしてみれば襲われやすい日。
それが満月の日。
今日である。
「お前ら抜け駆けすんなよ」
「しませんよ!」
「今日こそ俺が勝つ!!」
「負けないよ、山口君」
そしてこの4人。
とある同盟を組んでいる。
普段は手を出さない。手を出させない。
他の妖魔が城島に手を出したら問答無用で叩き潰す。
ただし満月の夜は、逃げる城島を1番に捕まえた1人だけが食べてもいい。
こんな約束の下集まった化け物4匹は、普段はそれはそれは過保護なくらい城島を守っている。
だから普段は城島が得をする。
何てったって大妖怪が4匹も自分を守ってくれているのだ。
しかし満月の夜だけは、日の出まで命がけで逃げ続けなければならない。
普段は我慢に我慢を重ねて手を出さないようにしているのだから。
そんなんだから満月の日の昼間。
4人は何ともいえない浮かれた雰囲気でソワソワしている。
襲われる側の城島も別の意味でソワソワしていた。
「おっ・・・・・・・・・・お前らに食べられてたまるかぁぁああああ!!!!」
絶叫とともに自室に引きこもった城島は携帯で、とある友人に電話をかけた。
『はい?』
数回の呼び出し音で低めの声が出る。
「あ、坂本?僕や、城島」
『おー、どうしたの、茂君』
声のトーンが少し上がった。
「ちょぉお願いがあんねん」
電話の相手、坂本は城島の古い友人で、類は友を呼ぶ、彼は城島に似た特異体質人間。
『何?』
「今晩ヒマか?僕と一晩過ごしてほしいんやけど」
類稀なる清浄な気を持つ彼は、月の満ち欠けに関わらず、どんな時でも妖を払う力を持っていた。
『はぁ?何言ってんの、茂君〜。ダメだよ、俺女が好きだからさ』
「そういう意味やないわボケ!!マジで命かかっとんねんこっちは!」
『冗談冗談。一晩は無理だなー。今日俺11時からバイトなんだよ』
「それでもええから。今からお前んち行ってもええ?」
『んー?別にいいよ』
約束を取り付けた城島は、急いで、あらゆる物をカバンに詰め込んで、逃げるように自宅を後にした。
「で、俺がバイトに行ったらどうすんの?」
「一晩逃げ続ける」
「へぇ」
漂う紫煙。
2人で煙草を燻らせながら、のんびりと話す坂本と少し不機嫌な城島。
「てか何であいつらから逃げんの?何ともないじゃん」
「・・・・・・・・・・・・お前はえぇよな、平和で」
「何言ってんの、茂君。わけわかんないんだけど」
笑いながらそう言って、コーヒー飲む?と立ち上がる。
台所に向かう後姿を見送って、城島は後ろを振り返る。
「しかもお前もついてるしな」
「ついてるって言い方はちょっと違うと思うけど?」
その胡乱気な視線の先、坂本のベッドの上にさっきまでいなかった白い服の青年が1人。
「一緒やっちゅーねん」
ジト目でその青年を睨むと、彼は笑った。
「俺は坂本君の清浄な気をもらう代わりに守ってあげてるの。立派なギブアンドテイクじゃない」
「お前が言うと胡散臭いねん、天使やっちゅーても羽根ないし」
「俺が天使って言ってるんだから天使なんだよ。羽根がないから天使じゃないって言う理論はおかしいよ」
「天使て主張すんなら僕も守ってくれや。その奉仕精神で」
城島がそう言うと、天使と主張する彼はにっこりと微笑んで、そう言った。
「イ・ヤv だって茂君守ってもメリット無いもん」
「このクソ天使!」
「てんし?」
城島が悪態をついたと同時にカップを持った坂本が戻ってくる。
慌ててそっちに振り向き、すぐに視線を戻すと、すでにベッドの上には人影は無く。
「誰と喋ってたの、茂君」
「・・・・・・・別に・・・・・・・・・・・」
坂本自体も首を傾げるだけ。
この男、妖を払う力を持っているが、それを見る力・感じる力はカケラも持っておらず、実は先ほどの青年の姿も全く見えていない。
つまり、自分の守護に自称天使がついているということも、まったくもって知らないのである。
「砂糖とかいらなかったよね?」
「・・・・・・・・・・・おん」
解ってくれない友人に、城島はがっくり肩を落としてカップを受け取った。
「じゃあ変な鬼ごっこ頑張って〜」
軽い感じで手を振りバイトに出勤する坂本に手を振り返し、城島は引き攣った笑みを浮かべる。
彼の頭の上で、自称天使も笑顔で手を振っていた。
「・・・・・・・・あの天使、いつか成仏させたる」
誰にも聞こえないように小さく呟き、城島はカバンを背負い直す。
「・・・・・・・・今日も絶対に食われるもんか」
ぐっと手を握り締め、人々が寝静まり始めた無人の街に向かって歩き出した。
街灯も消え始めた頃、異様なくらい人気のない町で、長瀬はニオイだけを頼りに適当に歩き回っていた。
その耳は尖り、指には鋭い爪、お尻の辺りからはふさふさの尻尾が生えている。
他3人と同盟を組んで半年。
いまだ長瀬は一度も勝利していない。
たまたま城島の血を口にしてその味にはまり、城島のいる家に押しかけてみたものの、
吸血鬼が2匹に生気を食料にするお仲間が1匹、すでに居候していた。
「・・・・・マボは傍にいるだけでお腹いっぱいになるんだから参加しなくてもいいじゃん・・・・」
ぽつり呟くと同時にお腹が鳴る。
「うぅ・・・・・お腹空いた・・・・・」
夜空に輝く満月を眺め、長瀬は目を潤ませた。
その時、嗅ぎ慣れたニオイが、微かに鼻を掠めた。
瞬時に身体を緊張させる。
少しでも気を抜くと出てくる涎を堪えながら、闇夜に紛れる。
その視線の先、かなり離れた所に、何かを警戒しながら音も立てずに歩く人影。
「・・・・・・・・・・リーダーはっけーん・・・・・・・・・・」
舌なめずりをして小さく呟く。
しばらく様子を見、城島がカバンから何か取り出そうと立ち止まった時、長瀬は走った。
「リーダー見っけ!!!」
瞬間城島が振り返り、慌てて走り出す。
しかし、人間の足で狼男に敵うはずもない。
数秒もかからず長瀬が城島と距離を詰める。
その時、城島は急に足を止め、長瀬の方を振り返った。
「いっただっきまぁ〜す!!!!」
長瀬が飛びつこうとした瞬間、城島が力いっぱい長瀬の方に何かを投げた。
それは長瀬の頭上を大きく放物線を描いて飛んでいき・・・・・。
「長瀬ぇ!!!!取って来ぉい!!!!!」
その言葉に、長瀬は反射的に、頭上を飛んでいった何かを追いかけて、逆方向に走り出した。
四つん這いになって走り、ジャンプしてそれを口で見事にキャッチする。
そして。
「んがぁ!!!?」
それをくわえたまま長瀬は悲鳴を上げた。
「どうや!!銀製フリスビーの効果は!!狼男も所詮は犬や!!」
うっかり弱点である銀でできているフリスビーをくわえてしまった長瀬は、
口元を押さえ、唸りながらながら地面をゴロゴロのた打ち回っている。
「指の1本もやるか!!」
そう捨て台詞を残して、城島は夜の街に走って消えた。
狼男・長瀬。一番に脱落。
長瀬の失敗をビルの上から見ていた男が一人。
「あいつアホだなぁ。ま、競争率が下がるからいいけどねー」
彼は小さく笑ってその場から飛び降りた。
辺りを警戒しながら路地裏に入る。
見通しが悪い分、襲う側にしてみたら有利であるが、逃げる側にしてみると、障害物は多い方が有利である。
カバンの中の残りアイテムを確認しながら、城島は、足音を立てないように奥へ進む。
無意識に、首から提げていた銀のクロスを握り締めた。
自身の妖を払う力が完全に消えてしまっている今、命綱はこのペンダントだけである。
これで多少なりとも妖を払うことができるのだが、所詮気休め。
雑鬼程度の低級なものならまだしも、今追われている大妖怪3匹には全く効果は無い。
その証拠に。
「あ。リーダー」
横手から聞こえた声にそちらを見れば、人の生気を食って生きる妖魔が1匹。
「・・・・・・・っ松お・・・・・しまっ・・・・」
思わずその名を呼んで後悔。
その赤く光る目を見た瞬間、身体が勝手に動きを止めた。
「逃がさないよー」
嬉しそうに、スキップでもしそうな勢いで近寄ってくる。
サキュバスは自分の目を見た人間に金縛りをかけることができる。
それは餌(=人間)を逃がさない工夫である。
「よっしゃ!今日は俺の勝ち!」
固まる城島の腕を取り、自分の方に引き寄せて。
「誰が男にキスされてたまるかぁ!!!!」
松岡が金縛りを解いた途端、城島がすばやい動きでカバンからペットボトルを取り出してフタを開け、
その中身の透明な液体を、叫びながら松岡に向けてぶちまけた。
「キスしないでも食べれ・・・・・・・・・・・・・っあっちいぃ!!!?」
ぎゃああああ、と叫びながら逆方向に走り出す松岡。
「お前には銀が効かなくても聖水は効くって判っとんねん!!!」
「さすがリーダー」
去っていく松岡に向かって声を上げる城島の肩を誰かがポン、と叩いた。
「・・・・・・・え・・・・・・・?」
「つっかまえたv」
ぎぎぎ、と音がしそうな様子でゆっくりと振り返った城島に、彼はにっこり微笑んだ。
「た・・・・・・・・太一・・・・・・・・・・・・」
「油断大敵ってね。俺は長瀬や松岡とは違って、あんなヘマはしないよ」
そう笑いながら、片方の手はしっかりカバンを奪って遠くに放り投げている。
「今日こそは血をもらうよ」
城島の腕と肩をがっしりと掴み、その首筋に顔を近づける。
必死に抵抗するものの、力の差は歴然で、びくともしない。
「いただきます」
ぽそり、小さく呟いて、太一が口を開けた瞬間、城島の身体が光を放った。
「うわ!!?」
そのままいたら浄化されてしまうほどの光に、太一は慌てて距離を取る。
「・・・・な・・・・・・何や・・・・・・・?」
城島自信も何が起きたのか飲み込めず、オロオロと周囲を見回した。
「人がせっかく助けてあげてるんだから、早く逃げなよ。茂君」
頭上から声。
その声の主を確認し、太一は眉を寄せ、城島はポカンと口を開いた。
「な・・・・・・・おま、何で・・・・・・・?」
「たまには助けてあげようかな、って思ったんだよ。その代わり、今度何か美味しいもの食べさせてよね」
数時間前まで坂本の傍でのほほんと笑っていた自称天使がそこにいた。
「・・・・・・・邪魔する気?」
太一がイラついた声を上げる。
「茂君とちょっと契約したから。ね?」
彼の笑顔に、城島が慌てて首を縦に振る。
「っちょっと!!それ卑怯だよ!!約束と違うじゃん!!!」
「や・・・・・・約束も何も、僕は食べてもいいなんて言うとらん!!」
「さー、茂君。ちゃっちゃとどっかに行っちゃってよ。ここは俺が引き受けたから」
「この性悪天使!!!」
「吸血鬼風情が何言っちゃってんの?」
バチバチ火花を散らす2人を尻目に、城島は走って逃げた。
心の中で自称天使の気まぐれに感謝の辞を述べながらも、軽くなるであろう財布を思い、何となく憂鬱になった城島であった。
日の出まであと10分ほどになった。
東の空が薄っすらと色付き始めるのが見える。
その後何度と無く襲ってきた妖魔3匹を何とか撃退し(天使はあれ以来来なかった)、ようやく迎えるゲームの終了。
目の下に薄っすらと隈を作りながら、城島はとあるビルの屋上で手すりにもたれて東の空を眺めていた。
「ふー・・・・・・・。今回は何事も無く終わりそうや・・・・」
安堵のため息をつき、ポケットから煙草を取り出す。
1本取り出して、愛用のライターで火を点ける。
紫煙を胸いっぱいに吸い込み、宙に向かって吐き出した。
「美味いわー」
「美味いですか。それは良かった」
声と同時に横に立つ影。彼も手すりにもたれる。
「やっぱ機嫌がいい時の方がいいんだよね。血を吸うのは、さ」
そう言って笑ったのは、今まで一度も顔を見せていなかった山口。
「!!!」
瞬間顔を青褪めさせて身を引こうとした城島の腕をがしっと掴む。
「逃がさないよ、シゲ」
「イヤやっちゅーねん!!お前が一番イヤや!!」
ジタバタするが、びくともしない。
吸血鬼らしからぬ浅黒く日焼けした腕が城島を捕らえて離さない。
彼には日の光も銀製品もニンニクも効かない。強いていえば木の杭で心臓をぶち抜けば死ぬだろうが。
「離せやー!!!」
勢いよく城島が自らの腕を引っ張り、反動で背を向けた瞬間、山口は背後から抱きしめた。
「さ、観念してくださいね」
「イヤやって!!!イヤや!!離せ!!!」
城島の抵抗は空しく、山口には全く効いていない。
「今回も俺の勝ちだ」
嬉しそうにそう呟いて、山口が首筋に顔を近づける。
そして。
「いっっっでええええええええええええええ!!!!!!!」
城島の叫びが夜明け前の街に響き渡った。
夜明け2分前。ゲーム終了。
勝者。吸血鬼・山口。
「また兄ぃの勝ちだし」
「いいじゃん。マボはわざわざ参加しなくても食べれるんだから」
「俺はあの性悪天使に邪魔されたし」
不機嫌に太一・松岡・長瀬が文句を言う。
朝の食卓。目の前に並ぶのは毎朝のように松岡が作った豪華な朝食。
それをご機嫌で口に運んでいるのは山口。
そしてその横、さらに不機嫌オーラを撒き散らかしているのは、今回も逃げ切れ無かった城島。
「何そんなに機嫌悪いの?」
「お前なぁ・・・・・・もうちっと加減して咬めや!!痛いねん!!」
「いやー、だって腹へってさぁ。加減できなかったんだもん」
目くじら立てる城島に、山口はあはは、と笑う。
「・・・・・今度から無条件で太一にやろうかな。太一やったら眠くなるだけだから楽やし痛くないし・・・・」
「それホント!?」
城島の呟きを聞いて太一の機嫌が一気に上昇した。
「「「えええ!!?」」」
そして残り3人が同時に声を上げる。
「それひどくない!?」
「俺だって効能あるだろ!!?肩こりが治るって言ってたじゃねぇか!!」
「俺一回も食べてないのに!!」
最後の長瀬の抗議に、妖魔3匹はじっと睨む。
「お前は食べれなくていいんだよ」
「何でっすか!!?」
「お前は腕とかが目的だろ」
「茂君自体を食べられたら困るんだよ」
「えぇええ!!!?ひどい!!俺だって食べたい!!!」
ギャンギャン始まる妖魔4匹のケンカに、城島はギリギリと箸を握り締める。
そして。
「僕は食いもんじゃないっちゅーとるやろぉぉおお!!!!」
城島の絶叫とともに、払う力が最大級に放出されて、妖4人は死にかけたのであった。
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前々から書きたかったネタですが、上手く書けてるかどうか。
妖怪呼び寄せ体質のリーダーと、呼び寄せられてる妖怪4人のお話でした。
ちなみに自称天使はVの食通さんでした。
そして、HaSとはhide-and-seek(かくれんぼ)のことです。
いかがでしょうか、直さま。
お気に召さなかったら書き直しますので、遠慮なくおっしゃってくださいね。
リクエスト、ありがとうございました!!
2006/08/14
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