ある日の昼下がり。
天界中心にある宮殿の内、地のエレメントが支配する空間にて。
「どこ行くべ、山口」
胡乱気な表情で問いかけた彼に、山口は爽やかなアイドルスマイルを浮かべた。
「ちょっとそこまで」
その笑顔を受けて彼も微笑んだ。
「ちょっとそこまで?これから地界との協議があるのに?」
「おう。そういえばそうだったなぁ。いつからだっけ?」
「あと半刻後に始ま」
「あ、無理だわ」
彼の言葉を遮って、山口は再度微笑む。
「やー、ちょっとデートの約束しちゃってさー。誘った側が遅刻とかありえないっしょ?」
「結構前から協議の日取りは決まってたのに、その日にわざわざ約束する方がありえねぇよ」
ジト目の視線をさらりとかわす。
「ま、そういうわけだから」
少しずつ、全開の窓の前まで移動していた山口は、彼の言葉を聞くことなく、窓枠に足をかける。
「そういうわけじゃねぇよ!!!協議はどうすんだよ!!」
「あー、長瀬に行かせればいいじゃん。松潤でもいいんじゃね?」
「長瀬行かせてどーすんだ!!アンタが来れば万事順風なんだよ!!!」
「だから、俺はこれからデートなんだよ」
目を怒らせてドスドス歩み寄ってくる彼に、山口はあはは、と笑いながら、羽根を広げた。
「じゃ!」
そして、羽根に風を含ませて、軽く敬礼して飛び立つ。
「・・・・・・・・行かせねぇ!!!!」
窓から離れていくその姿を追いかけて、彼も窓枠から羽根を広げて飛び立った。














同時刻。地界。
「・・・・・・今日こそは観念してもらうよ、茂君・・・・・・・」
「嫌やわぁ、そんな殺気立って」
薄っすら笑みを浮かべてジリジリ近寄ってくる彼を、城島は爽やかな笑顔で迎える。
「茂君が協議に出席してくれれば、俺が殺気立つ必要はないんだけどなぁ」
「え?何に、やって?」
彼の攻撃を軽くかわし、開け放されている窓枠に手をかけた。
「だからね、何ヶ月も前から決まってたでしょ?今日は天界との協議の日なんだよ」
「そういえばそうやったなぁ。出席したいのは山々なんやけど、今日はどうしても行かなあかんねん」
苦笑いを浮かべて城島に、彼は怪訝な表情を浮かべる。
「どこに?」
「えー?内緒v」
ハートマークを浮かべて首を傾げる。
肩までの茶色の髪がふわりと揺れた。
同時に彼の額に青筋が浮く。
「・・・・・・・・茂君?」
「やって、せっかく誘ってもろたんに、断るんは失礼やんか。なぁ?」
「ていうか知ってて誘いを受けたんでしょ」
「実はそうやねん」
にぱっと浮かんだ笑顔に、彼は大きくため息ついた。
「僕がおらんでもどうにかなるやろ。と、いうことで」
城島はニコニコ笑いながら窓の外に身を乗り出す。
「え!?」
「僕はデートに行ってくるからー」
「ちょ・・・・・・・・待って!!茂君!!」
彼の制止を聞かず、城島は窓の外に出た。
黒い羽根を広げて飛んでいく城島を、彼は思わず追いかけた。














何もない空間に、巨大な門がそびえ立っている。
石造りのその門には、仰々しいほどのごつい鎖によって鍵が掛けられている。
・・・・・・ように見えるが。
実際よく見ると、鎖は飾りのように引っ掛けられているだけで、全く鍵の役目は果たしてはいない。
その前に降り立ったのは、白のタンクトップにカーゴパンツを履いた山口。
それに間を置かず、黒い翼が降り立った。
「待った?」
「いや、今来たとこだよ」
白のカッターシャツにGパン姿の城島の言葉に山口は柔らかく微笑んだ。
「ごめんなぁ、ちょっと妨害が入ってん」
「おー、奇遇だね。俺も実は妨害が入ってさ」
ホントに今来たとこなんだよね、と言いながら、飾りの鎖をジャラジャラ外す。
「てかこの鎖いらなくね?もともとこんなんなんだから意味ないじゃん」
「これは開けっ放し防止に付いてるんやと思うで。この門ってちょっとした拍子に全開になるやん」
ほら。
城島が指差した先には、鎖を外しただけで自動ドアのように左右に開き、隙間が開き始めた門があった。
「あー。ホントだ。それにしても適当な門だな、コレ」
山口が軽く叩くと、石らしからぬコンコンと軽い音がした。
「もともとこんなん無かったって話やで。こっちとそっちの戦争が始まって、造られたとか聞いたけど」
「ああ、あっちに影響が出ないように?」
「らしいで」
見た目は荘厳なそれを見上げて、山口は、ほうと息をついた。
「じゃあもういらねぇなぁ」
「まぁな。ま、天使も悪魔も、大半はコレの存在は知らんと思うけど」
「じゃあ何でアナタは知ってたのさ?」
「んー。七王の特権かな?」
鎖がなくなってしまわないように上手い具合に門に引っ掛けながら、山口は笑った。
その時。
「見つけたぁぁあああ!!!!!」
山口の背後から声がした。
振り返った先には猛スピードで突っ込んでくる白い翼。
「あ、中居」
「こんな所にいたのか!茂君!!!」
同時に勢いよく城島の肩が叩かれた。
「あれ、坂本?」
黒い軍服の彼は、ぜいぜい息を切らしながらも城島をがっちり掴んでいた。
「こんなところでイチャイチャしやがってこの野郎!!誰だその可愛い子はぁ!!!」
その横で、ぶちキレながらよくわからないことを絶叫した白服の彼に、黒い翼の2人は思わず視線を向ける。
「ホントにデートかよ!!マジで信じらんねーべ!!しかも悪魔かよ!!!いつ引っ掛けたんだよ!!」
「え?戦争中」
怒る中居に山口は少し照れながら答えた。
「・・・・・・・・・・なぁ、坂本」
「・・・・・・何。茂君」
「天使ってみんなあんなんなん?」
何故か馴れ初めらしきものを話し始めた山口と、それを悔しがりながらも聞いている天使に、城島は首を傾げる。
「・・・・・・・・・・・さあ・・・・・・・・・」
坂本も呆気にとられて呆然と眺めていた。
「で、仲良くなったわけ」
「マジで!!?そんな出会いがある・・・・・・・・って、ガチンコ勝負!!?山口と!!?あんな細い子が!!?」
目を見開いて城島を見つめる中居に、はたと山口はあることに気付いた。
「おい、中居。あの人、見ての通り、線は細いわ髪長いわ顔は整ってるわだけど、男だぜ?」
「・・・・・・・・・・・・・は・・・・・・・・・・・・・?」
山口の言葉に、中居は口を半開き状態で硬直する。
「あ、どうも〜。七王に名前を連ねさせてもらってる、城島です〜」
「・・・・・・・・・・・・・嘘ぉ!!?七王!!?」
「ちなみに祝福は火やでー」
ニコニコ笑う城島。
「信じらんねーよ!!何だよコレ!!」
絶叫する中居をよそに、坂本は会話に出てきた天使の名前を記憶の中に探り当てていた。
「あ。アンタ、地のエレメンツの中居ってやつだろ?長野がそんなこと言ってた」
「そうだけど・・・・・長野?じゃあもしかしてアンタがアイツを餌付けした坂本?」
「え・・・・・・・・餌付け・・・・・・・・」
中居の言葉に坂本が言葉に詰まる。
「あ、そうだったんだ」
「そうなん?」
城島・山口の視線にさらに坂本は閉口した。
「・・・・って俺のことはどうでもいいんだよ!!茂君!!帰るよ!!」
「おお、そうだった!!山口も今日こそは出席してもらうべ!!!」
坂本の言葉を受けて、中居も当初の目的を思い出す。
2人の様子に、城島と山口は顔を見合わせて、そして微笑んだ。
「なぁ、2人とも。これ、何か分かるか?」
城島が、巨大な門を指差して訊いた。
「は?門だろ?」
「何の門かって訊いてんだよ」
「?知るかよ」
怪訝な表情を浮かべる2人に、山口は言った。
「ちょっと覗いてみ?面白いから」
すでに全開になっていた門の中を指差す。
「「?」」
警戒しながらも、素直に坂本と中居は門の中を覗き込んだ。
しかし見えるのは底の見えない真っ暗な空間。
「何が面白いんだ?」
そう言って、振り返った瞬間。
「「いってらっしゃーい」」
城島と山口が、笑顔で2人の背中を、勢いよく押した。
体勢を崩して一歩前に出る2人。
出た先には。
「・・・・・あれ?」
地面はなかった。
「うわあああああああああああああああああああああああ!!!!?」
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!」
2人は重力に従って真っ暗な空間を落下していく。
中居は絶叫し、坂本は声にならない叫びを上げた。
2人の姿が見えなくなって、その中を覗き込んでいた城島が、同じく覗いていた山口を見た。
「じゃあ、僕らも行こか?」
「そだね」
そう言って、2人も門の闇の中に飛び込んだ。






























急激に視界が開けた。
突然の閃光に、2人は目を閉じる。
次に開けた時には、真っ青な空と真っ白な雲。そして四角いビルの群れが目に入った。
「何だこれぇ!!!?」
「2人とも、羽根広げへんと地面に激突して、さすがに死んでまうで」
真っ黒な羽根を広げて落下速度を落としながら言った城島の言葉に、2人は慌てて羽根を広げる。
「どこだよここ!!!」
「え?人間界」
中居の絶叫に山口が軽く答えた。
「あの門はこっちと人間界を繋ぐ門だったんだよ」
「なっ・・・・・・・・そんなの存在すんのか!!?」
声を上げる坂本。
「存在しとるからここにおるんやろ」
「た・・・・・確かに城外の門の事は文献にもあったけど、誰もその存在を確認した奴は・・・・」
「今自分が確認したんやから、ええんやないの?」
慌てる坂本に、城島が不思議そうに言う。
「とりあえず降りようぜ。もう昼時だし」
「せやね。あ、その前に、2人とも上着脱いでや。そんな軍服姿やったら変な目で見られてまうわ」
そう言って颯爽と地上に向かって降りていく城島と山口を見遣って、仕方なく中居と坂本は後を追った。




「2人とも、何にするん?」
ファミレスの一席で、メニューを前に固まる2人に城島が笑いかける。
「・・・・・・何するの前に読めないんですけど」
「コレ何語だよ・・・・」
眉間にシワを寄せて、穴を開けんとばかりにメニューを見詰める中居と坂本。
「あー。そっか。俺らは勉強したけど、こいつらは勉強してないじゃん」
「したら読みあげたるね」
と、城島がメニューを読み上げた。
「じゃあこれ」
「俺はこれで」
何となく書いてあることが判った2人は、とりあえず無難なものを選ぶ。
城島が店員を呼び、スラスラと注文していく。
天界や地界にはないシステムに、2人は怪訝な表情を浮かべていた。
「で、訊きたいんだけど」
店員が去った後、中居が口を開く。
「そういえばちゃんと名乗ってへんよねぇ?
 七大王の内、煉獄王の名前をもらってます、城島茂です。できれば下の名前で呼んでほしいです」
城島はそう中居に笑いかけた。
「で、知ってるみたいやけど、こっちは坂本」
「・・・・・・・・凍土王の坂本です。何と呼んでもらっても構わないけど・・・・・・・・。
 そういうこと訊きたいわけじゃないと思うよ、茂君・・・・・・・・・・・・」
少し困ったような顔をして、坂本が城島を見る。
「え?そうなん?・・・・・・でも名前が判らんと呼ぶときに困るやん」
「地のエレメンツの中居正広。山口とは同僚。好きなように呼んでくれていいから。
 で、じょ・・・・・・・・茂・・・・君?山口も、ちょっと訊いてもいいかな?」
「何やろ?」
「さっきも言ってたけど、ここどこ?」
「人間界の日本て国のどっか」
「さっきの門は何?」
「人間界とあっちを繋ぐ門だよ」
「どうやったら帰れる?」
「こっちにある門をくぐれば、元の場所に戻れんで」
「どこにあるの?それ」
「「秘密」」
最後の問いに、城島と山口は声を揃えて微笑んだ。
「何で!!」
「それ言ったら連れ戻されるだろ。俺ら今日中は帰るつもりないよ」
「じゃあ協議はどうするんだよ!」
「サボる。別に7人全員で会う必要もねぇだろ、あんなもう決まってることを確認するだけの席なんて」
「え・・・・・・・・そうなのか・・・・・・・?」
中居が呆然と声を上げた。
「そうだよ」
それに答えたのは坂本だった。
「もう全部決まってるよ、内容なんて。協議なんてもんじゃない。承認会だ」
「じゃあ何であんな大々的に・・・・・・・・・」
「一部の反対派を抑えるためだ。こっちもだが、天界の方も和解反対派が多いんだろ?」
坂本の言葉に、中居はなるほど、と呟いて黙り込む。
が、すぐに口を開いた。
「何でそんなに詳しいんだ?アンタ」
「俺が決めたから」
「は?」
「俺が長野と決めたからだよ。・・・・・・・・・・・まぁ発案はアイツだけど・・・・・・・・・」
小さくため息をつく。
「・・・・・・・・じゃあ誰よりも行かなきゃヤバいんじゃね?」
「・・・・・・・・・・長野がキレるかもな」
「・・・・・・・・・・」
沈黙する2人の向かいでは、山口が一番早く来たステーキ膳なるものを早速頬張っていた。
「・・・・・・・・・ま、こんなことだろうとは思ってたけどね」
そう言って水を一口。
「何でそんなに落ち着いてられっかな」
「だって俺も行きたくなかったし。それに初めて人間界に来たわけだから、観光してくのもいいかな、と」
そして、やってきたペペロンチーノをつつき始める坂本。
やる気のない3人の様子に、中居は1人気張っていた自分が馬鹿らしく見えた。
「・・・・・・・たまにはいっか・・・・・・・・・」
ポツリそう呟いて、ようやく出されたペスカトーレにフォークを突き立てる。
それを見て山口は小さく笑った。











何をするでもなく、人通りの途切れない街中をうろうろ歩き回る。
途中家具を見たり本屋に立ち寄ったり。
「あ、あれ食べへん?」
城島の提案でアイスクリームを食べたり。
「何がええ?」
「何があんの?てかそれ何?」
「アイスクリーム言うんよー。バニラとかチョコレートとか…」
「俺甘くないのがいい」
「わっかんねー。任せるわー」
その言葉に城島は適当に注文する。
受け取ったカップをそれぞれに渡し、店の前のテーブルでそれをつつく。
「わ、これ美味い」
「ちょっと甘いけど食えないこともない」
長野に持ってってやろうかな、と呟く坂本に、山口が怪訝な表情を浮かべた。
「溶けるぞ?」
「あのな、俺を誰だと思ってんだ」
「坂本は氷の祝福やもんねぇ」
のんびりとした空気が流れる。
何とも言えない違和感に、中居は眉を寄せた。
「・・・・・・・どうしたん?中居君」
「や、何でもねーべ」
少し心配そうな城島に中居は笑いかける。
「そう?ならええけど」
とりあえず納得した様子の城島は、坂本とともに土産を選びに店の方に行ってしまった。
「・・・・・・・・何か変な感じ」
「何が」
中居の呟きに山口が訊く。
「あれが少し前まで敵対してた奴らだって思うと、何かすっげー微妙」
「それが普通の神経だろうな」
「でもさ、あっちは何とも思ってなさそうじゃん。どう接していいのかわかんねーよ」
「普通にすればいいんじゃね?」
「出来たら苦労しねぇよ」
中居がため息をついたところで2人が戻ってきた。
「じゃあ行くか」
山口がそう言って立ち上がる。
中居も倣って立ち上がった。








創主が人間界を創る前から続いてきた戦争がようやく終わった。
と言っても、反対派を力で押さえつけ、一部の者達が主動になって行われた停戦協定は未だ反発が大きい。
けれど、戦争が終わったのは事実で、
敵としか考えてこなかった黒い羽根の奴らと、今こうして肩を並べて歩いているわけだけど。



(今更どういう顔して付き合えってんだ)



目の前のヘラヘラした悪魔は、自分がどれだけ悪魔を殺してきたのか知らないだろう。
自分だって、どれだけの仲間がこの悪魔にやられたのかも知らない。

「天使ってのは厄介だな」
突然横で呟かれた言葉に、中居は言葉をなくした。
「なん・・・・・・・・・・」
「それだけ百面相してたら解るよ」
坂本が苦笑いを浮かべながら、彼を見ている。
「・・・・アンタがどれだけ仲間を殺したかなんて知らない。俺の大事な奴もお前に殺されてるかもしれない。
 でも死んじまったのはどうしようもねぇからさ。仇討なんてしても戻ってくるわけでもないし。
 なら、今傍にいる奴がどんな奴だったそしても、そいつを大事にして、仲良くした方が得じゃね?」
「・・・・・・・・・・そう簡単に割り切れるもんじゃねぇべ」
「これはもう、悪魔の性分としか言えねぇな。割り切れない奴もいるけど、大体は元は天使だし」
目の前を歩く2人は、今までいがみ合っていた関係とは思えないほど仲が良い。
「・・・・・・・・・・・・・・あの人」
それをぼんやり眺め、中居はポツリと呟いた。
「本当に“煉獄王”なのかよ」
視界の真ん中で、その人は段差も何も無いところで蹴躓いていた。
「あんなドジっ子だけど、確かに煉獄王だよ。戦時中からね」
「『煉獄王と呼ばれる悪魔には近付くな。それが通った後は全て焼け野原になる。
 骨も残らず焼き尽くされるぞ』・・・・・・・・・って、俺は聞いてたんだけど、そんなふうには見えねぇな」
「・・・・・まぁ、あながち間違ってないけど」
山口に引っ張り上げてもらう城島の姿を見て、坂本は苦笑した。
「茂君、戦争中はめちゃくちゃ荒んでたからなぁ。終戦間際には今みたいになってったけど。
 ある時なんて、堕天使を部下に登用するかしないかで揉めて、同僚の一人を半殺しにしてたからね。
 山口とガチンコ勝負したのもホントだよ。一週間帰ってこなかったから」
坂本の言葉に、中居ははたと動きを止めた。
「・・・・・・・・・・一週間・・・・・・・・・・・・・?」
「一週間」
「・・・あああ!!!山口が一週間の行方不明な上、ボロボロで帰ってきた時か!!」
少し間を置いて、中居が声を上げる。
「あの時はすごかった・・・・・・・。右腕と左足は消し炭になってるし、羽根も3枚無いし。
 右足も千切れかけだったよなぁ・・・・・・・・・。よく生きてたもんだよ・・・・・・・」
「そっちもか・・・・・・・・・・・。せっかくの長かった髪も焦げてボロボロになってたし、
 ・・・・・左半分は見れたもんじゃなかったなぁ・・・・・・・・・・・・でも楽しそうにしてたんだよね・・・・・・・・・」
「そうそう、半分死にかけてんのに、すごい機嫌がよかったんだよな〜」
感慨深げに2人は当時を思い出す。
「・・・・・・・・・・・・でも、あれから今みたいになったかもしれない」
「・・・・・・・茂君?」
「うん。笑うようになったかも」
「山口は変わんねーけど・・・・・・だから仲良いのか、あの2人」
笑う城島を、困った顔をしながら注意している山口の姿を中居は見遣った。
「青春みたいだよな、出会いが」
「お前なかなかやるな、お前もな、みたいな?」
坂本の言葉に中居は笑った。
「・・・・・・・・・そんなもんか」
「そんなもんだろ」
そして、再び先にいる2人に視線を向けると、こっちを向いて来い来いと手を振っていた。


「さ、もうすぐ日が沈むから、締めといこうか」
ニヤリ笑う山口に倣い、3人は羽根を広げた。
「どこ行くんだべ」
「あっちには無いもの見に行こうぜ」
ふわり、風を纏って、4人が空に飛び上がる。
横手に赤く染まり始めた太陽を見つつ、風上に向かって進んでいく。
橙に染まる街を走り抜けて、視界が開けた先には赤燈色の水平線。
「・・・・・・すげぇ・・・・・・・何だこれ・・・・・・・」
「これが噂の海だよ。あっちにはねぇもんな」
満ち引きに伴って起こる波が夕日を受けてキラキラと光る。
坂本も中居も、その光景に、言葉をなくした。
「・・・・・いつ見てもきれいやねぇ」
嬉しそうな城島の声が届く。
「こっちも良いもんだろ?」
山口の言葉に、2人は黙って頷いた。


















人間界側にある門を通って戻ると、門の前に黒いオーラを発している長野がいた。
「・・・・・・・・・・どういうこと・・・・・・・・?」
4人揃って曖昧な笑顔を浮かべて、それに対する。
「責任者がいなかったら協議進めらんないじゃん!ありえねぇよ!4人とも!!」
ブチブチ文句を言う長野を、坂本がお土産片手に宥めていた。
「茂君」
中居は、山口と次の約束をしていた城島に声をかけた。
「ん?何や?」
「今日は楽しかったべ」
そう言って、差し出された手を、城島は満面の笑みで握り返す。
「また一緒に遊びに行こうな」
「是非誘ってよ」
その笑顔に、中居も最高の笑顔を浮かべた。

「じゃあな〜!!」
地界に行くという長野を置いて、山口と中居は天界に向けて飛び始めた。

手を振る城島の姿が見えなくなった頃、山口が中居を呼んだ。
「何?」
「シゲは渡さねぇよ?」
不敵に笑った山口に、中居は苦笑を浮かべた。










再度開かれた協議のあと、1人の天使と1人の悪魔が全部ほったらかして人間界に脱走したのは、また別の話。




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ほのぼのっていうか、どたばたですよね。
中居さんの口調がいまいち判らず、見事撃沈です・・・・。
「〜だべ」の用法がよく判りませんでした。

ということで、一つ屋根の下の昔話なんですが、この企画では昔話が多いですね。
本編で書かなくてもよくなりそうです。

そういえば、天界・地界には海は無いです。
ついでに文字は天・地共通で、アルファベットに近いです。
書くところを見失って、結局補足になってしまいました。
ちなみにアイスクリームも無いです。
本当は煙草を吸うシーンも書きたかったのに、入れる機会が見付かりませんでした。

言い訳はこの辺にして。
いかがでしょうか、雪人さま。
お気に召さなかったら書き直しますので、遠慮なくおっしゃってくださいね。
リクエスト、ありがとうございました!!

2006/09/15




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